2010年09月12日

コネクトテクノロジーズ(3736)のMSCB

 8日、マザーズ上場のコネクトテクノロジーズ(3736)は2億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手はBrillanceという名前のファンドである。
 本MSCBは、転換価額修正条項には目新しい点はないが、発行理由が非常に深刻なものとなっているのが目を引く。
 本記事では、本MSCBの転換価額修正条項について簡単に説明した後、今回のMSCB発行理由について思うところを述べ、MSCBの存在意義について主張を行ってみることにする。

〜毎週修正、ディスカウント率10% 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。本MSCBの当初転換価額は6,878円と定められており、上限転換価額は13,756円、下限転換価額は3,439円と定められている。
 また、転換価額の修正が行われる日(決定日)は毎週金曜日と定められており、翌取引日(営業日)以降に修正後の転換価額が適用されることになる。なお、第1回の決定日がいつになるかという点については、『本新株予約権の割当日以降の毎週金曜日』とあるから、割当日そのもの、すなわち9月24日が第1回の決定日となり、翌取引日である9月27日より修正後の転換価額が適用されることになる。
 そして、それぞれの決定日において、修正後の転換価額は決定日終値の90%になると定められている。従って、9月27日以降の転換価額は9月24日終値の90%に修正されることになる(終値がない場合等を除く)。

毎週修正で決定日だけの終値を使うのは比較的珍しい
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要


 転換価額の修正が毎週行われるのは多く見られる事例であり、またディスカウント率が10%というのも(有利発行と見なされない限界という意味で)よく採用されている。

〜非常の資金調達手段としてのMSCB 主張〜


 さて、本MSCBの発行発表プレスリリースで特に目を引くのが、3ページ目にある『(2)当該資金調達の方法を選択した理由について』である。
 そこには、いくつかの理由が示された上で『消去法的に残された資金調達の唯一の方法が、MSCBであり』と記載されており、会社側としては他の資金調達手段がなかったが故にMSCBを選択したと述べている。
 また、自社の財務状況について、『このまま、資金調達を実施しなければ、平成22年9月25日には手元資金が尽き、給与も支給できないこととなり』という、どちらかと言えば株主よりは従業員にとって衝撃的な状況であることも述べている。というか従業員のみなさんがこの発表で動揺したりしないのだろうか。
 なお、プレスリリース7ページに記載されている調達資金使途の中には『給与未払分』として3百万円が計上されており、実は既に一部給与遅配が起きているのではないだろうかという憶測も可能だが、そこら辺は当ブログ的には重要な問題ではないので無視する。

 今回のような事例の場合、公募増資や普通株の第三者割当増資では会社財務状態などを考慮すると、引き受け手は現れない可能性が高いと言える。また、時間的な問題も考えれば、株主総会決議を経なければならない有利発行増資や時間がかかる株主割当増資なども会社側は選択できなかったものと思われる。
 「どうしてこんな状態になるまで放置していたんだ」という論点(もちろん経営陣はなんとか資金調達しようとしていたのだろうけど)があるのは承知の上で語らせて頂くと、今回のようにMSCB以外で資金調達ができない事態が時折発生してしまう以上、MSCBでの資金調達は完全に否定されるべきものではなく、MSCBに一定の存在意義があることは認めざるを得ないと主張する次第である。
 ただ、MSCB既存株主に犠牲を強いる可能性が高い手法なのは明らかなのだから、可能な限り(ここまで切迫した事態に陥る前に)株主総会決議を経て発行を行うべきであると主張するところである。

 ちなみに、個人的には、今後MSCBおよびMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の発行が起こりそうな事例として、増資直前の株価変動が激しい新興企業が成長資金の調達を行おうとする場合を挙げてみる。
 引き受け手としては、このような銘柄の増資を引き受ける場合、株価が固定された第三者割当増資や新株予約権では株価下落で損失を被るリスクも大きく、リスクの抑制ができるMSCBやMSワラントの採用を求めるのではないかと考えている。一方、資金が欲しい企業側にとっては、この手の要求を出されたら断るのはなかなか難しいのではないかねぇ。
 このような成長資金のための増資については、今回のコネクトテクノロジーズ程には資金繰りが厳しいわけではないのだから、株主総会決議を経た上でMSCBやMSワラントの発行を行って欲しいものである。

 
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2010年09月06日

トランスジェニック(2342)のMSワラント

 1日、マザーズ上場のトランスジェニック(2342)は2万株分のMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手はマッコーリー・バンク・リミテッドである。
 本MSワラントについては、考察を試みた結果、以下のような注目点があるとの認識を抱いた。
(1)株価終値が下限価格を下回ると即座に予約権行使が不可能になる
(2)本MSワラントでは会社側が行使指図を行う事が定められているが、引き受け手は行使指図数を越えてMSワラントの行使を行う事が可能と読める
(3)貸株に関しては大株主からの借株は行わないと読める記載がある
 本記事では、行使価額修正条項の概要について述べた後、本MSワラントにおける行使指図条項の位置づけおよび貸株に関する記載について考察を試みる。


〜ディスカウント率10%、毎日修正 概要〜


 本MSワラントの行使価額修正条項の概要を図1に示す。本MSワラントの当初行使価額は68,090円と定められており、上限行使価額はなく、下限行使価額も定められていないが、株価終値が43,330円を下回った場合、予約権行使は制限されることから事実上の下限行使価額は43,330×90%=38,997円となる。
 また、行使価額の修正は行使請求の都度行われるとされているから、事実上毎日修正が行われるものと見なすことができる。そして、各修正日における修正後行使価額(修正日価額)は『直前取引日』すなわち、(当日が営業日の場合)立会終了前は前営業日の、終了後は当営業日の終値から10%ディスカウントした値に定められる。

毎日修正は厳しい
図1 本MSワラントの行使価額修正条項の概要


 なお、株価終値が43,330円を下回った場合は、予約権行使はできなくなり、行使価額の修正(というか算出)が行われなくなる。この点は、下限行使価額を設定する場合に比べ、下限行使価額での予約権行使が行われづらいので、少なくとも引き受け手にとってはやりづらいものと思われる。

〜行使指図は行使数量の下限設定 考察〜


 さて、本MSワラントではコミットメント条項を定めることになっており、その中に、予約権の行使指図・行使禁止に関する条項も盛り込まれている。
 具体的には、
(1)20営業日以内に予約権を指定の数量行使することを義務づける行使指図を行うことができる
(2)予約権の一部または全部の行使を行う事ができない期間を定めることができる
の2項目である。
 (1)は引き受け手に一定数の予約権の行使義務を負わせる期間、(2)は一部または全部の予約権行使を禁止する期間と言える。
 ここで、行使指図も行使禁止も行われていない期間はどうなるのか、と考えてみると、「指図されていない以上行使しなくとも良いが、禁止されていない以上、行使したければしてもよい」という考えに至る。つまり、(1)(2)の他に、
(3)行使してもしなくとも良い
という期間が存在するのである。
 さらに、先に説明したとおり、株価終値が43,330円未満の場合、予約権行使は制限されるから、
(4)会社側が設定するまでもなく行使不能
という期間も存在する。ただし(1)と(2)、および(2)と(3)の一部または全部が重複する可能性がある点に注意が必要である。
 これらをまとめて図に示すと図2のようになる。ごちゃごちゃしててわかりづらいが、言いたいのは、(1)(2)(4)以外の期間は行使するもしないも引き受け手が自由に決められる(3)の期間に該当する、と言うことである。

(3)の存在を見落としがち
図2 本MSワラントの行使指図・行使禁止条項のまとめ


 ここで注意が必要なのは、行使指図は、一定期間中の予約権行使数の下限(義務数)を定めるに過ぎないように読める点である。となると、行使指図で行われるのは、あくまで『当社が指定する数の本新株予約権を行使するよう』指図することだけであるから、それを超える数量を引き受け手が行使することを止める指図は(少なくともプレスリリースを読む限り)できないものと考える。
 もっとも、行使指図とともに、予約権の一部(行使指図数を除く残存予約権の全て)の行使禁止((1)(2)の重ねがけ)を行えば行使指図数を超える予約権行使を止めることはできるので、引き受け手のやりたい放題に必ずなると言うわけでもなさそうでもある。
 では、予約権の行使数量の上限はいくらなのか、と考えていくと、一番確実なのは日証協のMSCB規制に定められた『一月当たり発行済株式総数の10%』と言うことになると考えられる。現在のトランスジェニックの発行済株式総数は約109,000株であるから、毎月約10,900株がもっとも確実な予約権の最大行使数と言うことになる。
 以上のことを勘案すると、会社側がしっかり管理する意志と引き受け手に対する立場の強さ(←ここ重要)を有していれば、会社側の主張通り予約権の行使速度を管理することは十分可能であると考える次第である。

〜貸株は不要? 主張〜


 これまで、MSCBやMSワラントでは引き受け手が利益を上げる戦術として、「大株主からの借りた株を空売りし、株価が下がったところでMSCBを転換して株式を返却」という手法がよく使われてきた。このため、既存株主は株価下落という損害を被るリスクが高く、MSCBは忌避されてきた。
 ところが、今回のMSワラントでは、貸株に関して『当社及び当社の役員・大株主と割当予定先との間において、本新株予約権の行使により取得する当社株式に関連して株券貸借に関する契約を締結しておらず、またその予定もありません。』という記載がなされている。
 と言うことは、「予定はなかったけど株券貸借契約結んじゃいました」という感動的展開にならない限り、引き受け手は大株主から株式を借りることはできないことになる。
 では、引き受け手はどうやって本MSワラントで稼ぐつもりなのだろうか。いや、もちろん、予約権の行使をした後で利益が出る水準で売るというのがまっとうな手だけど、それだと確実性が低いし、何より当ブログ的に面白くない。

 この点、自分は「株式を空売りした後、受け渡しする株式の手当を予約権の行使で行うことはできないだろうか?」という疑念を持っている。
 自分は金融関係は素人なのでここから先の話は想像なのだが、空売りした株式の受け渡しは、現物株の受け渡しと同様4営業日目(約定日+3営業日目)である。と言うことは、空売りした日と同日(株価が下落しているなら立会終了後)に予約権を行使し、株式が4営業日目までに入手できるのならば、空売りした株式の受け渡しは、MSワラントの行使により得られた株式で行えるはずである。問題は、MSワラントを行使してから4営業日目までに株券を入手できるのかと言う点である。
 ここで、参考事例として、タカラレーベン(8897)が日本史上初めて実施した新株予約権無償割当て(ライツ・イシュー)を挙げたい。本件では、一般株主に新株予約権が割り当てられ、株主は予約権売却か予約権行使、または予約権をそのまま失効させるかのいずれかを選択できた。このうち、予約権の行使を行った場合は、店頭対応で6営業日目(行使日+5営業日目)くらいだったようである(参考リンク)。
 つまり、今回のトランスジェニックのMSワラントでも、最悪でも行使から6営業日目に株式を入手できるのは間違いないであろう。問題は、それよりも早期入手が可能か、4営業日目までに入手できるかである。自分としては、個人に比べれば株式の早期入手ができる可能性が高いと考えているが、実際の運用がどうなっているのかはわからない。ただ、本MSワラント発行後の株価推移から引き受け手の戦術がある程度推測できる可能性があるので、そこから株式入手までの日数もある程度推測できるやもしれない。


 貸株に関しては、ゲオ(2681)が本年5月に発行したMSワラントでも本MSワラントと同様の記載がある。今後、『本新株予約権付社債の転換を前提としたつなぎ売り以外の〜貸株は行わない』と言った結局貸株は行うことを示す従来の貸株の文言に代わり、この手の記載が増えていくかもしれない。


 本MSワラントは、今後MSCBで引き受け手がどんな手段を用いて稼ぐか知るための重要な事例となる可能性がある。
 株価推移、大量保有の状況、いずれも注視していきたいところである。
 
(2010/9/10 図1内の発行日の日付が間違っているとのご指摘をいただきましたので訂正しました)
posted by こみけ at 00:15| Comment(9) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月30日

イデアインターナショナル(3140)のMSCB

 25日、ヘラクレス上場のイデアインターナショナル(3140、以下イデア)は約1億円の第三者割当増資および4億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 会社側はプレスリリース内で『本新株予約権付社債はMSCBには該当しません』との記載を行っている(2ページ)が、当HPでは「転換価額修正条項が定められている新株予約権付社債は(例え上方修正のみであっても)全てMSCB」と定義しているので、本記事中では当HPの定義に沿ってMSCBとして取り扱う。
 引き受け手はジャスダック上場のエレコム(6750)である。目的はイデアとエレコムの資本・業務提携であるという(プレスリリース)。
 金融関係でない企業がMSCBやMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の引き受けを行うのは極めて珍しい。過去の例では、2005年のニッポン放送騒動の際、ニッポン放送が発行するMSワラントを子会社?のフジテレビが引き受けようとした(発行差止仮処分決定により発行中止)ことがあったが、それ以外の事例を自分は知らない。

 本記事では、今回のMSCBの概要を説明し、プレスリリース中で『本新株予約権付社債はMSCBには該当しません』と記述している点について軽くつっこみを入れたあと、本ファイナンスに関するイデアとエレコムの思惑について考察を試みる。


〜転換価額の修正は7ヶ月ごと 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。本MSCBの当初転換価額は683円と定められており、上限転換価額は888円、下限転換価額は479円と定められている。
 転換価額の修正は2011年の5月1日、12月1日・・・2013年9月1日と7ヶ月おきに5回行われることになっている。
 それぞれの修正日において、転換価額は修正日の直前20取引日の終値平均値の90%になると定められている。

修正間隔以外は割と普通
図1 本MSCBの転換価額修正条項の概要


 このうち、特に興味深いのは、転換価額の修正が7ヶ月おきに行われると定められている点である。プレスリリースには転換価額修正間隔に関する説明は記載されていない上、資金使途からも特に理由らしきものをうかがうことはできない。
 だが、先に紹介した『本新株予約権付社債はMSCBには該当しません』というプレスリリース中の記載がヒントになる。日本証券業協会(日証協)ではMSCBの定義の一つに、転換価額の修正が6ヶ月もしくはそれ以下の間隔で行われるものと定めており、本MSCBは転換価額の修正が(6ヶ月を超える)7ヶ月間隔で行われるという一点で日証協の定義するMSCBではない事になる。
 ひょっとすると、転換価額の修正を7ヶ月間隔にしたのは、(日証協の定義する)MSCBとなることを回避するのが目的なのかもしれない。ただでさえ大規模増資という悪材料を発表せざるを得ない中、悪評高いMSCBの発行という名目で発表を行う事だけは避けたかったのやもしれない。


〜低流動性が傍証 考察〜


 さて、今回のプレスリリースを見て行くと、今回のMSCBがエレコム側にとってかなり不利なものとなっていることがわかる。
 具体的には、
(1)本MSCBの発行前にエレコムはMSCB引受額の75%に相当する現金(3億円)をイデアに貸し付ける(≒いわゆるつなぎ資金の提供)
(2)2013年8月31日以前の転換は、イデアが新規の資本増強を行うか、取締役会が行使許可を行った場合以外は認められない(転換制限)
の2点を挙げる。この他、下限転換価額も比較的高いと言える。
 (1)(2)の条項それぞれは珍しいものではないのだが、(1)(2)双方が定められているMSCBは極めて珍しい。
 そもそも、(1)のつなぎ資金の提供は、発行企業(イデア)の資金繰りが厳しい状況に追い込まれていることを示しており、このような条件をつける発行企業は、引き受け手にとって不利な条件となる(2)MSCB転換制限を言い出せる立場ではあんまりないと言わざるを得ないのである。

 それにも関わらず、エレコムは本MSCBを引き受けた。すっかり悪党思考が身についている自分は、「何でエレコムはこんな条件で引き受けたのだろうか」と悩んだのだが、「どうやらエレコムは(プレスリリースの通り)本当にイデアと資本提携をするつもりのようだ」との結論を得るに至った。
 その根拠となるのが、イデアの直近の株式売買高である。気になる方はチャートでご確認頂きたいのだが、イデアは目下流動性が大変低く、7月の売買高はわずか9,300株だった。
 エレコムが第三者割当増資とMSCB転換で得る株式数が73万株(当初転換価額の場合)に上ることを考えると、これを市場でさばくことは大変な苦労になるはずである。もし、無理矢理行おうとすれば株価が一気に下落するのは想像に難くない。
 エレコムもその辺の事情はわかっているだろうから、短期転換・売却を目的としてMSCBを引き受けた可能性は小さいと考えるところである。よって、今回のファイナンス引き受けは本当に資本提携が目的なのだろうな〜と認識した次第である。
 転換価額修正条項を入れたのは、株価下落に伴う評価損・・・というか転換時に市場価格に比べて割高な株を得るリスクを回避しようとしたのではないかと考えてみる。
 また、MSCBが上限転換価額で全株転換された場合でも希釈化率がぎりぎり100%を越えているのも、ちゃんと資本提携を考えている一つの証拠になりそうである。希釈化率100%越えと言うことは、現在発行されている株式数以上の新株を発行すると言う意味なのだから、第三者割当増資とMSCB転換で得た株式を保有し続けていれば、確実にイデア株の過半数を押さえることになるからねぇ。

 ・・・と言うことで、本MSCBはイデア、エレコムが業務提携を行うに当たっての色々な思惑が入り乱れた結果生み出された代物ではないかな〜と感じる次第である。
 個人的に興味深いのが、エレコムがイデアを一気に子会社化はしないものの、MSCBの転換を行えば一気に子会社化可能、と言う今回の手法を言い出したのはどちらかという点である。
 自分としては、イデアはいきなり子会社化されたくないという想いがある一方、エレコムも経営再建前のイデアをいきなり子会社として抱え込むというか連結決算化するのは避けたいという思惑があったのではないかと妄想してみる次第である。

 
posted by こみけ at 23:23| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月20日

東洋ゴム工業(5105)のMSCB

 8日、東洋ゴム工業(5105)は50億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 本MSCBは、エルピーダメモリ(6665)のMSCBと同様、各月の最低MSCB転換額が定められた代物である。
 しかしながら、本事例では引き受け手の野村證券はエルピーダの事例に比べてはるかに柔軟にMSCBの転換を行えるようになっており、プレスリリース記載の東洋ゴム側見通しを覆しかねない要素をはらんでいると考える。

 本記事では、本MSCBの概要を説明した後に、『毎月一定数量を転換する』とプレスリリースに記載されている取り決めが実際はどのように運用されうるのか考察を試みる。

〜毎月修正・ディスカウント率8% 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は226円と定められている。また、上限転換価額は339円、下限転換価額は113円と定められている。転換価額の修正は毎月第2金曜日に行われ、各決定日における修正後転換価額は決定日までの5取引日の終値平均値の92%になると定められている。第1回決定日(8月14日)を例に取ると、8月10・11・12・13・14日終値の平均値から8%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

修正条項はごく一般的
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要


 なお、貸株の空売りについては、『当社の特別利害関係者(企業内容等の開示に関する内閣府令第1条第1項第31 号イに定義される)』(≒役員や過半数の株式を握っている会社)との株券貸借契約は結ばないと記述しているものの、31号ロ(株式保有比率上位10社)についての記述はない。
 従って、東洋ゴムの株主構成を見る限り、その気になれば(大株主からの)貸株の調達は不可能ではないと思われる。

〜一月で50億全転換もありうる 考察〜


 さて、本MSCBで自分が気になった箇所として、プレスリリースで発行理由として挙げられている『割当先である野村證券株式会社との間で、原則(管理人注:株価低迷時などが例外)として毎月一定数量(社債額面金額3億円)を転換する旨の合意をする予定であり、段階的に着実な資本拡充が期待できる』という記述を挙げてみる。
 この合意により、東洋ゴム的には『小刻みに公募増資を実施する場合と同様の経済的効果を期することができる』のだという。仮に、毎月3億ずつ定額のMSCB転換が行われればそう言いえるのかもしれないが、自分は、この合意は3億ずつ定額と言う取り決めではないものと認識した。
 プレスリリースの6.(5)には割当先(野村)による新株予約権の行使義務が定められているが、本項では、野村の行使義務は『各行使約束期間(≒1ヶ月)ごとに少なくとも3個(管理人注:MSCB3億円分)』と定められている。つまり、3億円分というのは最低額で、多い分には毎月何億円分だろうがMSCBを好きなだけ転換していいことになっていると解釈できるのである。
 本MSCBと同様に新株予約権の行使義務を定めた事例として、昨年発行されたエルピーダメモリ(6665)のMSCBが挙げられる(参考:当ブログの考察記事)。エルピーダの事例においては、発行発表時のプレスリリースには、『毎月一定数量(社債額面金額50億円相当)』の転換を行うと記載していたが、実際は、後述する日本証券業界による規制枠一杯の毎月60億円ずつのMSCB転換を行っていた(転換不可能だった月をのぞく)。
 したがって、今回のMSCBについても、エルピーダと同様の仕組みになっていると考えるのが妥当であり、引き受け手の野村が一月に3億円超のMSCB転換を行う可能性は考えておかなければならない。
 以上の点より考えると、行使義務に関するプレスリリースの記述については、嘘とまでは行かなくとも、誤解を招きかねない表現であると言わざるを得ないところである。実際に大規模転換が起きたとき、既存株主からどんな反応が出るのやら。

 一方で、日本証券業協会(以下日証協)の規制により、各月のMSCB転換規模は発行済株式数の10%未満に制限される。しかしながら、今回東洋ゴムが発行したMSCBの規模は時価総額の10%弱である。と言うことは、(時価総額の数十%の規模だった)エルピーダの事例に比べれば、本MSCBにおける日証協規制の影響は小さくなると言える。
 図2に転換価額と各月の転換可能なMSCBの規模の関係を示す。平均転換価額が218.1円以上の場合、MSCB50億円分を一気に転換したとしても転換で増大する株式数は発行済株式総数の10%以下になる。すなわち、野村が1ヶ月で全MSCBを転換しても(少なくとも日証協規制の観点では)何の問題もない。また、下限転換価額の113円の場合においても、25億円分の転換は可能となっており、2ヶ月でMSCBの全転換が可能と言うことになる。
 つまり、東洋ゴムがプレスリリースで主張するところの『着実な資本増強』はずいぶんと短期間で行われてしまう可能性が否定できないのである。

大量保有報告が楽しみ
図2 転換価額と各月の転換可能MSCB規模の関係


 ・・・図2を見ると、エルピーダの事例に比べて、はるかに引き受け手の野村の自由度が高く取られていることがわかる。
 もちろん、この理由は本MSCBの規模が相対的に小さいことである。だが、もう少し最低転換規模を大きくしても良いのではないかな〜と感じた次第である。
 まあ、東洋ゴム的にそれでいいのなら問題ないのだがねぇ・・・支出予定時期を見れば、大丈夫だとは思うのだが。


 ・・・と言うわけで、日証協や東証がMSCB規制を行っている現状においても、MSCBの進化は相変わらず続いている。
 それまでの手法と一線を画すような革新的なMSCBの類は、昨年、裏で引き受け手と株価連動のスワップ契約を結んでいたとして話題になったアーバンコーポレイション(8868)以来出ていないと考えているが、そろそろ出てきてもおかしくないような気がする次第である。本年8月から導入されるという東証の第三者割当増資規制がきっかけとなる可能性もある。
 そもそも資金調達ができない、と言う企業が多い昨今であるが、資金調達手法の進化についても注目しておこうと思う今日この頃である。
 

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2009年04月06日

ラウンドワン(4680)のMSCB

 3月26日、ラウンドワン(4680)は総額72億円分のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 引き受け手は日興シティである。

 本MSCBについて考察を試みた結果、自分としては以下のような注目点があるものと認識した。
(1)転換価額の修正が行われるのは株価が4月2日終値の半値以下の状態が続いた場合のみであること
(2)(1)の転換価額の修正が行われない場合、強制取得(事実上のMSCB強制転換)が行われる可能性が高まること

 本記事では、第1回から第4回までのMSCBのうち、第1回を例に取り概要を述べてみる。
 その後、本MSCBの転換価額修正条項がやたらと複雑になっている点について軽く妄想してみることにする。

〜転換価額修正は基本的に1回のみ、ディスカウント率8% 概要〜

 本MSCBの当初転換価額は4月2日(木)の株価終値(683円)の120%である820円と定められた(プレスリリース)。
 また、下限転換価額は、4月2日終値の50%、342円と定められた。

 次に、転換価額の修正条項について概要を述べる。
 本MSCBの転換価額修正は、あとで説明する強制取得時を除き一度のみ行われることになっている。また、転換価額の修正期間は第1回から第4回MSCBまででそれぞれ異なる。
 第1回の場合、修正が行われるのは、4月14日から6月15日までの間(転換価額修正観察期間)に株価が下限転換価額を10日間連続で下回った場合である。また、修正後の転換価額は、4月14日から、株価が10日間連続で下限転換価額を下回ることになった日の初日の前日までの間のVWAP平均値の92%である。
 仮に、5月11日から5月22日までの10営業日の間連続して株価が下限転換価額を下回った場合を想定すると、転換価額の修正は4月14日から5月8日までの間のVWAPをもとに行われることになる。

 以上で説明した転換価額修正条項の概要を図1に示す。
今まで見たことがない複雑さ
図1 転換価額修正条項の概要

 また、7月10日(強制取得日)までに本MSCBの転換が進まない場合は、『残存本新株予約権付社債の全部を交付財産と引き替えに取得する』とある。この『交付財産』は株式のことだから、事実上残存するすべての第1回MSCBを強制的に転換するといって差し支えないと思われる。
 んで、この際の転換価額(強制転換価額)は、4月14日から6月26日までのVWAP平均値の92%と定められる。この点、プレスリリース上では転換価額の修正とは書いていないが、これも事実上の転換価額修正と考えてよいのではないかと。
 なお、強制転換価額の算出は、MSCBが全転換された場合を除き、図1で説明した転換価額修正の有無にかかわらず行われると考えて良さそうである。

 以上で説明した強制転換価額算出の概要を図2に示す。
上方修正の可能性もある
図2 強制転換価額算出の概要


〜複雑な修正条項の裏には何が? 考察〜

 ここまで見てきた転換価額修正条項等を考えると、本MSCBの転換は、
・株価が4月中旬以降、下限転換価額を下回る展開が続く場合は早期に転換価額の下方修正が行われ、早い時期にMSCBの転換を行う。
・株価が300円台後半〜700円台の範囲で推移する場合は、強制取得日に転換価額が修正されるまで待ち、株式を得る。
・株価が当初転換価額を大きく上回って推移する場合は、強制取得日前に(当初転換価額での)転換を行う。

とするのが引き受け手の利幅がもっとも大きくなる。

 すなわち、引き受け手は株価推移に応じて上記それぞれの戦術を採る可能性が高いのではないかと考えることはできる。
 だが、自分が気になったのが、日興シティ(とラウンドワン)は本MSCBについてここまで複雑な転換価額修正条項を定めたのはなぜなのか、と言う点である。日興シティがそれなりの利益を得たいと思うだけならば、一般的な転換価額修正条項(毎月修正とか)を備えたMSCBを発行すれば十分ではないかと考えるのである。
 まあ、最近のMSCBへの批判から、よく知られた形式のMSCBの発行をためらったという可能性はなくもないが。

 が、小悪党たる自分としては、こう、裏で何かしらの金融商品が組成されているとか、あまりよろしくない方面の妄想を抱いてしまうのである。その方がおもしろいし。
 もっとも、仮に何らかの動きがあったとしても、かつてのアーバンコーポレーションのCBの裏に存在したスワップ契約のように、ラウンドワン自身がその動きに関わっているとまでは考えていないが。
 ・・・この点は、正直、本当に何かが裏にあるのか、それとも何もないのかも含めて何とも言えないねぇ。まあ、いつものように生暖かい目で見守りましょうということで。


 本MSCBは、転換価額修正条項の厳しさという点ではそれほど恐ろしいものではないし、時価総額から見た発行規模(希薄化の度合い)の観点でもさほど厄介な代物ではない。
 しかしながら、転換価額修正条項の複雑さという一点で裏に何かあるのではないかという不気味さを感じてしまう代物であると個人的には感じてしまった次第である。

 さてさて、真相はいかに。
 
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2009年03月15日

ジャルコ(6812)、第1回MSCBに行使制限条項等を追加する

 11日、ジャスダック上場のジャルコ(6812)は、2日に発行を発表した第1回MSCBについて、行使(転換)制限条項を追加すること、下限転換価額を4円と定めることなどの発行条件修正を発表した。プレスリリースはこちら
 また、MSCB発行に関するプレスリリースはこちら

 今回の発行条件修正については、5日に申し立てが行われたという本MSCBの行使差し止めに関する仮処分申立が影響しているものと思われる。
 ・・・発行ではなく行使の差し止めを請求しているところは興味深いが、実質的にはさほど変わらないと思われる。行使差し止めが行われれば、払い込みは行われないだろうからねぇ。
 ジャルコは、本MSCBの内容に問題があるとの勧告をジャスダックから受けたにもかかわらず、勧告を無視して発行を発表している。
 ジャルコの立場からすれば、勧告を受けた当初条件のままでは仮処分申立が認められる可能性が大きいと判断し、MSCB発行(資金調達)の実現を最優先にMSCBの発行条件修正を行ったのではないかと推測してみる次第である。

 当初、自分は本MSCBに関して、以下の問題点があると認識していた。
(1)下限転換価額が定められていないこと
(2)MSCBの行使(転換)数量制限が定められていないこと
(3)転換価額が極端に下がった場合、転換株式数が発行可能株式数を大きく上回ってしまうこと
(4)引き受け手からの繰上償還請求が、株価推移などにかかわらず発行翌日からできること(発行要項 14.(4))
(5)株式併合等が行われる場合、行使価額の調整を引き受け手が拒否できると読める条項があること(発行要項16.(8)但し書き)
(6)発行手数料として2,250万円、発行額の15%を支出するのは多すぎるように思えること
 ・・・なお、ジャスダックが問題点として挙げた『行使価額が下方にのみ修正される設定となっていること』は、良くあることなので自分としては特に問題にしていなかった。

 このうち、(1)(2)(3)については、今回の修正により解消された。
 また、(6)については、当初の『発行手数料』と言う名目から、『カタリスト株式会社に対する仲介手数料』に変更(修正?)された。仲介手数料という名目でそれだけの金額を支出することが妥当かどうかはさておき、投資家にはより詳細な情報が提供されたことになる。
 (4)については、ジャルコの経営が極めて厳しい状況にあることから定められたものと考えられ、引き受け手も本ファイナンスが高リスクな代物であると認識しているものと予想できる。
 (5)については、似た事例を07年に数例確認している(参考:バナーズ(3011)のMSCB) 。本但し書きは、簡単に言うと、株式併合で基準株価が上がったとしても、転換価額は従来のまま据え置きにする(か基準株価に合わせて上げるかを引き受け手が選ぶ)ことができるという条項である。実際に発動されれば恐るべき威力をふるうことになるが、本条項は株主総会の特別決議(株式併合承認)が必要なこともあり、実際に発動することを現時点から考えているとは考えにくい。というか考えていたら鬼。


 さて、ここまでの流れを見ると、今回の修正発表は既存株主の視点から見ればいいことばかりである。だが、会社の資金繰り上のことを考えてみると、ちょいとゆかいなことになっているのに気づけるのである。
 本MSCBの当初転換価額は15円であり、上方修正は行われない。すなわち、転換価額は15円以下である。また、行使制限条項が追加されたため、各歴月の転換可能株式数は90万2,000株(現在の発行済み株式数の10%)に制限されている。さらに、償還期限は6ヶ月後の本年9月である。
 以上より、転換されるMSCBの総額は、転換価額が最高値である15円を維持したと仮定した場合でも、単純計算で、

 15(転換価額)×902,000(各月の最大転換株式数)×6(月数) = 81,180,000(円)

となる。なお、個人的には月数を6ヶ月ではなく7ヶ月(3月、4月、・・・9月)と見なして計算すべきでないかと考えているが、『一月の行使量が最大902,000株で行使期間が6ヶ月であるため、最大で5,412,000株となり・・・』としている修正後プレスリリースの記載に従った。

 以上より、1億5000万円発行される本MSCBは、最大でも8千万円強までしか転換できないことになるのである。
 つまり、本MSCBは全額の転換は不可能となってしまったのである。言い換えると、今回の1億5000万円の社債は、MSCBと金利5%のSBが混在している状況であるとも言える。
 しかも、本MSCBは発行翌日(3月20日)から引き受け手からの繰上償還請求が認められている。たとえ発行翌日であっても、繰上償還請求を受けた場合は、発行額の20%もの諸費用を支払いようやく調達した資金の一部を5営業日後に耳を揃えて返さなければいけないのである。
 引き受け手は、転換不能なSB的部分については、早期の繰上償還請求も検討すると思われる。その場合、ジャルコにとっては償還資金の確保が重い課題になるそうである。
 調達資金の支出を3月中に行ってしまうわけだから、新たに償還資金の確保が必要なはずである。


 本MSCBの今後については、まず、現在審理中であると思われる仮処分申立が通るかどうかを見届けたい。
 申立が通れば会社側は別の資金調達手段を検討する必要が出てくるはずだし、申請が却下されればそのまま発行を行うはずである。
 むしろ、(無事に発行が行われたと仮定して)引き受け手がどんな手を使ってくるかの方が興味深い。
 引き受け手としては、まずは、転換不可能な分のMSCBを繰上償還請求するか、それとも保有継続するか(金利目当て?)の決断を行う必要があるはずである。いや、それ以前に転換が不可能な分の払込は最初から行わないという可能性もあるか・・・。
 この辺、どういう動きがあるか結構楽しみである。
 

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2009年02月22日

「やさしい日経経済用語辞典」のMSCBに関する記述について

 自分は現在日経新聞を購読している。
 購読契約更改は約半年に一回ほどなのだが、このたび、契約更改の特典として「やさしい日経経済用語辞典」という本(2008年11月10日1刷の版)を入手した。
 適当にめくってあちこち眺めていたのだが、書中にMSCBに関する記述も見つけたので以下でちょいと語ってみる。


 辞典内でのMSCBに関する記述は3分の1ページほどなのだが、

・転換価額の修正は時価(修正時点の株価)の1割安のことが多い
・従って引き受け手に有利
・希薄化により既存株主の不利益につながる
・ライブドアの発行事例が有名
・投資家の評判が悪い代物である

と言った点を押さえており、良くまとまった記述であると言える。まあ、それだけといえばそれだけなのだが。

 残念ながら、MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)についての記述はなかったが、こちらはMSCB程は知名度が高くないので仕方のないところか。次回改訂での掲載を待ってみるところである。
 非売品のため、日経新聞の購読申し込み以外に入手する手段はほとんどないと思うが、機会があれば眺めて見るのも良いのではないかと。
 
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2008年12月31日

08年おもしろIR・ファイナンスを選んでみた

 いよいよ今年も残すところ数時間となってしまった。昨年までは大みそかも忙しく働いていたが、今年は社会人にクラスチェンジした&不景気なこともあり、比較的のんびりした年末年始となっている。
 ということで、本年出されたIRやファイナンス等のプレスリリースのうち、管理人が面白いと感じたものを特に選りすぐって紹介してみることにした。
 なお、以下の選定はあくまで管理人の独断と偏見で行ったものである。多数の取りこぼし等があると思うが、その辺はご容赦を。


○おもしろIR
 新興市場中心に騒ぎが起きていた昨年からは一変、本年は世界的な金融不安の嵐が吹き荒れた。このような混乱の中、各企業が出すプレスリリースは見過ごされるものが多かった。
 だが、そんな中にもきらりと光る一品もある。以下に示すのは、管理人の脳裏に本日まで生き残り続けたおもしろIRたちである。年末発表のものが多いのはご容赦。

第1位 サハダイヤモンド(9898) 子会社に係る新規事業の開始に関するお知らせ
 子会社で新規事業を始めるのはいいとして、『株主、投資者の皆様に評価いただく為の合理的に算出・立案された事業計画はございません』という開き直りというか行き当たりばったりというか、もうちょっと言い方あるだろう的な文面を載せてしまった一品。
 誰か止める人は社内にいなかったのだろうか。

第2位 春日電機(6650) 当社代表取締役の違法行為差止仮処分命令申立事件の決定について
 上場企業の代表取締役が、自らの会社の監査役が申し立てた仮処分命令を受けてしまうという一見理解しがたい状況を報告したもの。内容はさておき、自分が言いたいのは「ゼクーみたいに社長もプレスリリースで反撃したらもっと面白かったのに」ということである。

第3位 エルクリエイト(3247) 借入による資金調達の状況に関するお知らせ
 自社にとって不利な情報を隠そうとする企業が多い中、資金調達がうまくいっていないことを、見ている方が心配になるくらいに投資家に周知した一品。
 その後もこまめに周知し続けるも最終的には破産してしまったが、開示姿勢は最後まで評価に値するものだったと思う。

第4位 ニューディール(4740) 株式事務代行委託契約の解除通知の受領について
 ニューディールの経営状態は数年前から厳しかった。だが、倒産や業績不振、株価低迷で上場廃止になることを予想していた人はいても、株式事務手数料の未払いで上場廃止の危機が迫ることを予想した人はいなかったに違いない。
 というか、いくらか知らないけどそれくらい払えよと思う次第。みんな思っただろうが。
 
第5位 日本トリム(6788) 自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ
 発行済株式数4,429,609株の日本トリムが上限60,000万株もの自己株式買付を宣言したということで、訂正プレスリリースが出るまでの間盛り上がった一品である。
 昨年までは、この手の訂正ネタは人ごとのように見物していたが、今年になってからは「人ごとじゃないな・・・」と思うようになった。正直、自分もいつやってもおかしくない・・・。

(番外)東京証券取引所 著しい希薄化を伴うエクイティファイナンスについて
 マザーズの某銘柄が発行済株式総数の数倍の増資を行うことを発表したのと時をほぼ同じくして東証が発表したプレスリリース。文面から東証の苛立ち具合が伝わってくる一品である。

(番外)金融庁 テラメント株式会社に対する大量保有報告書の訂正命令について
 トヨタ、NTT、ソニーなど日本を代表する大企業の株式の過半数を手にしたとの報告がなんの前触れもなく行われた事件。一部の関係者は額に青筋を立てつつ休日返上で働き、その他大多数の傍観者は週末大爆笑した一品である。
 でも、本件は実際には株を保有していないのは明らかだったから皆わかったけど、小型株で10%、とか出されたら多くの人は信じる可能性が高い。EDINETの改善を早急にして欲しいところである。


○注目優先株
 MSCB等に比べ注目度が落ちるが油断できないのが優先株。本年は変化球が出てきたのを探知した次第である。

イー・アクセス(9427) 第1種優先株式
 ここ数年、普通株式への転換権がついた優先株の発行が増えている。最近話題になった事例としては、GSなど金融3社とパナソニックの間で熱い駆け引きが行われた三洋電機の優先株が挙げられる。これら、転換権付の優先株については、普通株式への転換が行われた場合は株式の希薄化が進行するのではないかという懸念が常につきまとう。
 上記懸念を払拭すべく、イー・アクセスが発行を決めたのが普通株式への転換権のない優先株である。・・・こう書くとすごいことのように見えるけど、別にそれほど珍しいものでもないんだよねぇ・・・配当も結構持って行かれるようだし。わざわざ『普通株式の希薄化が生じない』などとタイトルにまで書く必要があったのかな〜と思う次第である。


○凶悪銘柄特別賞
 本年は世界的な金融市場の激変により、破綻したり、なりふり構わぬ生き残り策をとったりした企業が多数現れた。その結果、株式市場では国内外問わず暴落する銘柄が相次いだ。
 だが、以下に挙げる銘柄は、並の暴落銘柄とは一線を引くべき凶悪さを放ったと管理人が自信を持って推薦する銘柄である。

・アーバンコーポレイション(旧8868)
 本年後半の新興不動産急落の一因となった銘柄。
BNPパリバ割当で300億円のCB(MSCBに非ず)を発行し資金調達を行ったと発表。しかしながら、実は裏でURBAN-BNPパリバ間のスワップ契約を結んでおり、8月中旬までに300億円のうち92億円しか事実上入金されていなかったことを倒産のプレスリリースと同時に発表するという噴飯ものの結末となった。
 本件については金融庁が動いているほか、株主訴訟も起こされている。今回の一件を教訓に、情報開示制度のより一層の改善を期待したい。


○注目MSCB・MSワラント
 今年も数多くのMSCB・MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)が発行された。だが、これまでの数年でネタが出尽くしたのか、仕組み的に目新しいものはそれほど多くなかった。来年以降に期待(?)したい。
 以下は、そんな中でも管理人が注目したMSCB・MSワラントである。

・住友不動産(8830) 第1回MSワラント
 三井住友銀行信託口を引き受け手として発行したMSワラントで、劣後ローンの回収手段?としての意味合いがあるらしい。MSワラントを担保に取った融資、とも言える。不動産などの現物?担保がいらない便利な融資手段として広まるのではないか、と思っていたのだが、これまでのところ予想に反して拡大の兆しはない。

・ダヴィンチ・アドバイザーズ(4314) 第1回MSワラント
 3月に発行した本MSワラントは、第1回の行使価額修正及び下限行使価額の決定が12月に行われる仕組みになっていた。発行当初はそれほど問題視されていなかったが、いざ12月になってみると、170,000円→6,196円へと約96%程の豪快な行使価額の下方修正が行われてしまった。
 多分、発行当初はこうなるとは誰も予想していなかったし、引き受け手のBNPパリバも困っているだろうねぇ。金額ベースで一気にMSワラントの予約権行使ができないと言うことは、長い時間かけて少しずつ行使しなければいけないわけだし。まあ、だからといってBNPパリバが損するわけではないのだが。


○注目MSCBプレイヤー(引き受け手)
 いうまでもないことだが、増資等のファイナンスを行うためには、発行元の他に引き受けを行う組織が存在することが必要である。昨年までは証券会社、金融機関、ファンドなどが潤沢な資金を背景に次々と引き受けを行っていたが、本年はその流れが一変した。
 だが、以下に挙げる企業は、そんな逆風をもろともせず、感動的なファイナンスをいくつも引き受けたと管理人は評価した次第である。

・BNPパリバ証券
 前述のURBAN、ダヴィンチのファイナンス引き受けを行った証券会社である。世界的な金融市場の混乱で国内外の各社がリスクを取りに行くのを控える中、感動的なファイナンスを複数引き受けた点を評価した。
 なお、上記2件に関するプレスリリースには、『BNP Paribas S.A. はフランスを代表する世界有数の金融機関であります。』とか、『ビー・エヌ・ピー・パリバは当社のビジネス及び財務戦略についても熟知しており』とか、BNPパリバのすばらしさを述べる文章が記載されている(『割当先を選定した理由』の項)。この文章、URBANやダヴィンチが考えたのか、それともBNPパリバが用意したテンプレートをそのまま使ったのかが気になっている。
 まあ、まさか金融庁の処分を食らうようなファイナンスをやるに先立って自画自賛とかはないでしょうねぇ。


○2008年最凶MSCB
 本年の最凶MSCBを選定するに当たっては結構悩んだ。数銘柄に候補を絞るところまでは楽にできたのだが、そこから先は一長一短があった。
 だが、MSCBの条件そのものだけでなく、株価動向、発行企業の広報姿勢などを総合的に考慮すれば、やはりこの一品しかないだろう、との結論にたどり着いた。

・エルピーダメモリ(6665) 第1回MSCB
 本年最凶のMSCBとして管理人が選定したのが、日経平均がつるべ落としに下げている10月に発行を発表し、自社株価が暴落した後の11月に発行し、来年1月に繰上償還予定のエルピーダメモリのMSCBである。
 選定理由としては、発行のタイミングが最悪だったことがまず一点。
 次に、MSCBであることをぼかそうとしている上、貸株・月間転換可能金額で抜け道があると読めてしまったりするなど、不誠実と言われても仕方ないプレスリリースの内容も問題視した。
 おまけに、株価の暴落を引き起こしていながら、全く転換されないまま繰上償還されてしまうというなんの実りもない結末を迎えそうという点も他候補を引き離すのに寄与した(1月6日追記:1月5日にエルピーダより本MSCBのうち60億円分が転換されたことが発表された)。
 あと、個人的には繰上償還決定後の社長コメントも気になった。社長自身は知らないかも知れないが、一人くらいMSCBの問題点を知っている(&進言する)取締役なり財務担当の重役がいてもいいだろうに。
 というか、野村の担当者に聞いてもいいだろうに。相手はMSCBのプロだというのに・・・。


 以上、本年はこれまでにない金融危機の余波を受け、おもしろIRも経営危機の窮地の中で生み出されたものが大半を占めた。
 危機を乗り越えようとする人間の必死の努力が美しいものだとすれば、経営危機をなんとか乗り切ろうとする中で生まれたファイナンスの中にも美しさがにじみ出ているものがあるのは自然の理であるといってもいいかも知れない。

 来年も厳しい市場環境が続くであろうが、おもしろIRが出たときには笑ってみられるくらいの余裕は持って市況に向かい合いたいところである。


 それでは、以下に各部門のまとめを述べ、本記事を締めさせていただく。

○おもしろIR
第1位 サハダイヤモンド(9898) 子会社に係る新規事業の開始に関するお知らせ
第2位 春日電機(6650) 当社代表取締役の違法行為差止仮処分命令申立事件の決定について
第3位 エルクリエイト(3247) 借入による資金調達の状況に関するお知らせ
第4位 ニューディール(4740) 株式事務代行委託契約の解除通知の受領について
第5位 日本トリム(6788) 自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ
(番外)東京証券取引所 著しい希薄化を伴うエクイティファイナンスについて
(番外)金融庁 テラメント株式会社に対する大量保有報告書の訂正命令について
○注目優先株 イー・アクセス(9427) 第1種優先株式
○凶悪銘柄特別賞 アーバンコーポレイション(旧8868)
○注目MSCB・MSワラント
・住友不動産(8830) 第1回MSワラント
・ダヴィンチ・アドバイザーズ(4314) 第1回MSワラント
○注目MSCBプレイヤー(引き受け手) BNPパリバ証券
○2008年最凶MSCB エルピーダメモリ(6665) 第1回MSCB


 それでは、皆様も良いお年を!
 
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2008年12月14日

エルピーダメモリ(6665)、MSCBの繰り上げ償還を決定する

 11日、エルピーダメモリ(6665)は11月に発行したばかりの500億円のMSCBを繰上償還することを発表した。プレスリリースはこちら
 繰上償還の理由は「20営業日連続で株価が下限転換価額(509円)を下回った」ことによるものである。エルピーダ的には極めて不本意な形であるのは間違いない。
 これまで、MSCBの繰上償還でもっとも規模が大きかったのは、いすゞ自動車(7202)のMSCB(発行額1,000億円/繰上償還額400億円)が繰上償還された事例であると思われる(プレスリリース)。従って、今回のエルピーダの事例は、過去最大規模のMSCB繰上償還になりそうである。


 さて、エルピーダがなんでここまで不本意な形でMSCBの繰上償還をやることになってしまったかであるが・・・自分としては、
(1)市場環境が最悪の時にMSCB発行を発表した
(2)当初・下限行使価額の決め方が中途半端だった
(3)MSCB発行の目的として、資金調達だけでなく資本水準維持を狙っているという観測が広がった
の3点が要因であると考えている。

 (1)については説明不要であろう。本MSCBの発行発表日は10月14日であった。当時、日経平均は10月初旬からの急落局面を迎えており、市場にはすんごい不安感が台頭していた。14日当日の日経平均は急反発したとはいえ、そんな市場環境下で発行を発表するのはいささか軽率だったように思える。

 (2)は、当初転換価額の決め方に関するつっこみである。本MSCBの当初転換価額は、10月15・16・17日の株価終値の平均値から1,017円と算出された。ところが、エルピーダの株価はこの3日間を含め、15日から21日まで5営業日連続のS安となり、発行日(11月4日)時点で既に500円台、下限転換価額をうかがう水準まで株価下落が進行していた。
 一般的には、MSCBの当初転換価額価額は発行発表日、または前日の終値を元に決める場合が多い。しかしながら、エルピーダの場合は発行発表後の株価下落を予測していたため、発行発表後3日間の株価を元に当初転換価額を算出することにしたのではないだろうか。んで、結果は皆様ご承知の通りと。
 実は、当初転換価額の算出方法には、本MSCBのやり方以上に株価下落を織り込ませやすいやり方がある。それは「発行日当日(今回の場合は11月4日)」の終値を基準に当初転換価額を定める方法である。代表例としては、フォーサイド(2330)が05年に発行したMSCBを挙げてみる(リンク)。
 ・・・後講釈になってしまうが、MSCBの発行により株価が下がると思っていたのなら、発行日に当初転換価額を定める条件にしてしまった方が良かったのではないだろうかねぇ。まあ、この辺はエルピーダや引き受け手の野村の人々が市況見通しをどう考えていたかでも評価は変わってくるが。

 (3)は、本MSCBの転換により資本増強(資金調達に非ず)が行えなければ、銀行からの協調融資を返済しなければならなくなる可能性が高まる、と言う観測が広がってしまった点である。
 これでは、下限転換価額を下回る推移が続くエルピーダ株を割安と判断した人がいたとしても、買いに入るのを躊躇する面があったに違いない。


 ・・・今回のMSCBによる資金調達が失敗したことで、エルピーダは新たな資金・資本調達手法を模索することになった。が、少なくとも、今回と同規模(500億円規模)でのMSCBによる資金調達は現在の株価水準では不可能であろう。
 となると、考え得る資本調達手段としては、MSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の発行を行うのが一つ、金額を減らしてのMSCB再発行を行う可能性がもう一つというところか。第三者割当増資もありえるが、今のご時世では厳しいように思えてくる・・・さてどうなることやら。
 
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2008年10月19日

エルピーダメモリ(6665)のMSCB

 14日、エルピーダメモリ(6665、以下エルピーダ)は500億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 引き受け手は「Nomura Asia Limited」なる野村證券の関連会社である。

 本MSCBについて考察を試みた結果、以下のような注目点があるものと認識した。
(1)転換価額修正条項については、当初転換価額の算定方法が珍しいと感じる。
(2)各月のMSCB転換数量は、最小50億円、最大数量は株価水準により決まるが、少なくとも60億円以上の転換が可能である。

 本記事では、まず、本MSCBの転換価額修正条項について概要を述べる。
 その後、本ファイナンスに盛り込まれているMSCB転換義務(新株予約権行使義務)について考察を行う。

〜毎月修正、ディスカウント率7% 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は、10月15・16・17日の株価終値を平均し、1,017円と定められた。また、下限転換価額は509円、上限転換価額は2,034円と定められた。
 大半の場合、MSCBの当初転換価額は発行発表日または発行日の株価を基準として算出されることが多く、今回のように発表後数日間の株価を基準に算出する事例は珍しい。
 この点は、MSCB発行発表や同日発表したよろしくない業績見通しによって発生することが予見できたであろう株価下落を転換価額に織り込ませたかったのかもしれない。株価が下限転換価額に引っかかってしまったら元も子もないからねぇ。
 また、転換価額の修正は毎月第2金曜日に行われ、各決定日における修正後転換価額は決定日までの5取引日の終値平均値の93%になると定められている。第1回決定日(11月14日)を例に取ると、11月10・11・12・13・14日終値の平均値から7%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

3連発S安を想定していたかは興味深い
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要

 なお、貸株の空売りについては、Nomura Asia Limitedとの間については一定の条件下でのみ空売りができるという契約がプレスリリース中に記載されているが、野村證券との間の契約については記載がない。
 従って、野村グループ全体の立場では、その気があれば空売りは問題なく行えると考えるのが妥当であると思われる。


〜毎月50億円は最小値 考察〜

 さて、本MSCBには『転換(行使)制限措置』および『新株予約権の行使義務』なる条項が定められている。
 このうち、転換制限措置(プレスリリース9ページ目、7.(3) )については、『本新株予約権付社債(管理人注:MSCBのこと)に付された新株予約権を毎月一定数量(社債額面金額50億円相当)行使すること』を合意する予定であるという。また、プレスリリース2ページ目の、『<本新株予約権付社債の商品性>』および『<本新株予約権付社債を選択した理由>』にも記載されている。このことから、本MSCBは毎月50億円分ずつ行使されることが原則になっているようである。
 ただ、どうやらこの原則には例外もある模様だ。新株予約権の行使義務(プレスリリース10ページ目、7.(5) )では、毎月『少なくとも(中略)5個(=50億円分)』の行使を行うことと定められている。つまり、毎月5個は最低限の行使数で、6個(60億円分)とか10個とか行使することも認められている、という解釈が成立する。これより、各月に転換されるMSCBは50億円超にもなりうると読めるのである。

 かつて、野村が引き受けた双日(2768)のMSCBにおいて、発行発表時のプレスリリースでは『転換は原則として毎月300億円を上限とする(このプレスリリースの2ページ目)』としていたのにもかかわらず、実際には、野村は双日の同意を得た上で460億円分のMSCBを転換していたことがある。

 一方、今回エルピーダが発行するMSCBのプレスリリースにおいては、1ヶ月間に50億円を上回るMSCBの転換を行う可能性があることが確かにプレスリリース中に(1カ所だけだが)記載されている。
 しかしながら、プレスリリースの4カ所くらい、しかも前の方の目立つページにおいて、『原則として毎月一定数量(社債額面金額50億円)を転換する』という記述がある。
 自分としては、このような記述のやりかたは、本MSCBの転換は毎月50億円に固定されているとの誤解を投資家のみなさんに与えかねないと思う次第である。もちろん、50億円を超える転換を行うのはあくまで例外なのかもしれないがねぇ。

 この辺を総括すると、本MSCBの転換制限に関するプレスリリースの記述は、嘘とまでは言わないが、少なくとも美しくない代物であると感じる次第である。


 一方で、本MSCBの転換規模には(双日の頃にはなかった)公的なルールによる一定の歯止めが掛けられる。日本証券業協会(以下日証協)の規制では、各月のMSCB転換規模は発行済株式総数の10%にするよう定めている。本MSCBにおいてもこの規制が適用されるのは間違いない。
 10月14日時点での発行済株式総数は1億2,981万株であるから、その1割である1,298万株分のMSCBの転換が毎月可能ということになる。
 そして、これに転換価額を掛けた数字が毎月可能なMSCBの最大額になる。ただ、本MSCBの転換請求は10億円(=予約権1個)毎に行うと定められており、これより小口での転換請求は認められていない。従って、MSCBの転換可能額は(日証協規制を超えない範囲で)10億円刻みで増加していくことになる。

 以上より、行使義務条項で定められる毎月の転換可能なMSCB規模を図示すると図2の通りとなる。転換価額が509円の場合でも60億円の転換が可能であり、当初転換価額の1,017円では130億円の転換が可能である。
 もちろん、毎月50億円分のMSCBを最低でも転換しなければならないのは転換価額がいくらであっても同様である(株価が下限転換価額を下回った場合等は除く)。

1個1億なら柔軟性が高かったのに
図2 毎月の転換可能なMSCB規模


 現在、エルピーダの主力商品であるDRAMは価格が採算割れ水準まで下落しており、エルピーダ的には極めて厳しい状況が続くことになることが予想される。
 ひょっとすると、今回MSCBの転換義務条項を定めたのは、MSCB転換により純資産が増えないと(今回1,100億円を引き出すことになった)コミットメントラインの継続に問題が出るからかもしれない・・・純資産を一定以上に保つ条項があるとかそんなんかねぇ。

 いずれにしろ、今回エルピーダは1,600億円の現金を手にするのと引き替えに背水の陣を敷く格好になった。
 自分としては、その覚悟の行く末をなるべく遠くから見届けたいところである。
 
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2008年04月30日

ジャパン・デジタル・コンテンツ信託(4815)のMSワラント

 24日、東証マザーズ上場のジャパン・デジタル・コンテンツ信託(4815、以下JDC)は、合計で6万株分に相当する第6回および第7回MSワラント(行使価額条項付新株予約権、MSSO)の発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手はNDCインベストメントが運用するファンドとのことである。

 本MSワラントについては、考察を試みた結果、以下のような注目点があると認識した。
(1)行使価額修正条項については下限行使価額の算定手法以外に目新しい点はない。
(2)本ファイナンスによる調達資金額が8億円程度になると概算されているが、現状の株価ではそれだけの調達は難しいのではないか。
(3)本ファイナンスに関わる発行諸費用は発行規模に比べてかなり多いのではないか。

 本記事では、まず、本MSワラントの行使価額修正条項概要について概要を述べる。
 その後に、本ファイナンスでJDCが獲得する資金額および発行諸費用について考察を試みる。

〜ディスカウント率10%、毎日修正 概要〜

 本MSワラントの行使価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSワラントの当初行使価額は14,828円と定められている。また、下限行使価額は、6,740円と定められている。この6,740円の算定根拠については、『発行決議日前日の株価終値の50%としました。』とプレスリリース7〜8ページに書かれている。一般的には、「当初行使価額の50%」というように、当初行使価額を基準として定めるケースが多いから、本MSワラントの下限行使価額算出手法は、やや珍しいといえる。そして、この影響で、下限行使価額は当初行使価額の約45%と、50%を割る水準となっている。
 また、行使価額の修正は行使請求の都度行われるとされているから、事実上毎日修正が行われるのと見なせる。そして、各修正日における修正後行使価額は、修正日前日までの3取引日の終値平均値の90%になると定められている。すなわち、修正後行使価額は終値3日平均から10%ディスカウントされることになる。

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図1 本MSワラントの行使価額修正条項概要

 なお、貸株の空売りについては、特に記載はないものの、今後貸株が行われる可能性は否定できないところである。
 また、プレスリリース9ページの(3)で述べている行使制限措置は、東証の有価証券上場規定施行規則に定められている、いわゆる「1ヶ月に発行済み株式数の10%以上のMSCB(およびMSワラント)転換を行わない」という措置を行う(≒引き受け手に約束させる)ことのようである。

〜最終的な調達金額は? 考察〜

 本MSワラントは、予約権行使によって得られる株式数(交付株式数)は固定される一方で、JDCが得られる金額が変動するMSワラントである。このようなMSワラントの長所として、株価が下落しても交付株式数が増大しないため、希薄化が抑制されるという点が挙げられる。
 半面、行使価額の上下により得られる金額が変動するため、株価が下落した場合は当初予定した資金の調達ができないという問題がある。
 今回、JDCは本ファイナンスにより概算で8億円を調達すると発表している。一方、行使価額(≒株価)の推移次第では調達額の上下が起きることも認めている。以下では、この資金調達額について考察を行っていく。

 図2は、本MSワラントの平均行使価額と本ファイナンスによる合計調達金額の関係を示したグラフである。なお、この合計調達金額は、

合計調達金額 = 新株予約権の払込金額 + 新株予約権平均行使価額 × 交付株式数
          = 846万円 + 平均行使価額 × 60,000(株)

で算出したものであり、発行諸費用を差し引く前の金額である。

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図2 本ファイナンスにおける平均行使価額と合計調達金額の関係


 まず、図2を見ればわかるように、会社側が言う8億円を本ファイナンスにより調達するためには、発行諸費用を無視したとしても平均行使価額が13,192円以上になる必要がある。これは、株価が14,000円台後半で推移する必要があることを意味している。
 現在、JDCの株価は13,000円台での推移となっており、目標額の調達のためには株価上昇が必須である。

 さて、ここで再度図2を見直して頂きたい。平均行使価額が14,828円、すなわち当初行使価額の場合、合計調達金額は約8億9800万円であることがわかる。
 一方で、会社側が『差引手取概算額』は8億円であるとプレスリリースに記載している。この『差引手取概算額』がどのような状況の場合の概算であるか、特に記載されていないが、当初行使価額で本MSワラントが全て行使された場合の手取概算額であると見なすのが妥当であると思われる。
 このことから、発行諸費用として差し引かれる額は、単純計算で約9800万円、調達金額の約11%に上ることが推測できる。

 本ファイナンスが比較的小規模な案件なため、諸費用が割高になるのはやむを得ないことである。また、その諸費用が何に使われるかもはっきりとしないところではあるため、あまり激しくつっこみは入れられないところである。
 ただ、既存株主の側から見れば、有利発行ぎりぎりのディスカウント率(10%)で予約権を行使された上、会社に払い込まれた資金の1割強が諸費用として消えていくのはおもしろくない状況であるといえると思われる。
 また、先述したとおり、会社側が目標としている8億円(諸費用差引後)の調達も、現状ではかなり難しいと見なす必要がある。従って、十分な額の資金調達ができなかった場合について、会社側がどのような展望を持っているか注視する必要があるのではないかと考える次第である。


 以上、本MSワラントからは、サブプライム問題と新興市場の冷え込みという厳しい環境の下、資金調達に苦しむ不振新興銘柄の苦悶が垣間見える結果となった。
 今後しばらくは同様の状況が続くことを覚悟した方がよいと思われるが、そのような中でもしっかり本業で稼いでもらいたいものである。いやほら、それが本筋ってものでしょう。
 

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2008年02月12日

住友不動産(8830)のMSワラント

 7日、住友不動産(8830)は総額1,200億円相当のMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の発行を発表した。プレスリリースはこちら
 本MSワラントは、劣後ローンに付属?するものであること、メインバンクである三井住友銀行の信託口が割当先であること、行使期間が約50年と非常に長いことなど、一般的なMSワラントとは異なる点が多い代物である。
 本記事では、本MSワラントの行使制限条項および行使価額修正条項について簡潔に説明した後に、本ファイナンスがなんでこんなわかりづらい仕組みになっているのか考察を試みる。

 なお、本記事の後半ではローンや担保に関する推測を行っていますが、管理人はこれら金融知識については素人です(きっぱり)ので、そこら辺についてはあまり当てにしないで頂きたいと思います。また、記事中に間違いなどがあったらご指摘いただければと思います。


〜行使開始は実質6年後? 概要〜

 さて、本MSワラントの発行日は本年2月22日であるが、本年2月22日から6年後の2014年2月22日までは一定の条件を満たした場合を除きMSワラントの行使ができない旨が定められている。
 具体的には、本MSワラントの割当と同時に住友不動産向けに融資が行われるローンの利払いが止まったとき、監理ポストや整理ポストに割り当てられたとき、公開買付(TOB)が宣言されたときなど6項目が挙げられているが、いずれも近い将来において該当するような事態になることは考えにくく、現時点では本MSワラントの行使は2014年以降になって初めて可能になると考えた方が良さそうである。ここら辺を図で示すと図1のような感じになる。行使最終日は50年後の2058年2月22日であるが、まあそんな先のことは気にしなくても良いのではないかと。
 
50年後のことまで考えなくとも・・・
図1 本MSワラントの行使制限条項の概要

 次に、本MSワラントの行使価額修正条項の概要を図2に示す。本MSワラントの当初行使価額は2,440円に定められており、下限行使価額は当初行使価額の約45%、1,087円と定められている。
また、本MSワラントは引き受け手が予約権行使を行う度に行使価額の修正が行われるものとされていることから、図2においては、行使価額の修正はMSワラントの行使制限が解除される2014年2月22日より開始されるものと仮定した(もちろん、それ以前に行使制限が解除されれば、その時点から行使価額の修正が開始される)。
 そして、各修正日における修正後行使価額は、修正日までの20取引日の終値平均値の95%になると定められている。すなわち、過去20日間の終値平均から5%ディスカウントした値に行使価額が修正されることになる。

事実上毎日修正型
図2 本MSワラントの行使価額修正条項の概要

 貸株の空売りについては、本MSワラントの行使で得る株式数の範囲内で行う範囲内での空売り及び借株を行うかもしれないことがプレスリリースより読みとれるので、当然、行われる可能性があるものと見なすべきである。
 なお、1,200億円相当という本MSワラントの発行規模は、ライブドアによる買収騒動の最中に発行が発表され、発行差し止めの仮処分が下り発行を中止したニッポン放送のMSワラント(約2,800億円相当)を除けば過去最大と思われる。


〜値下がり耐性のある担保? 考察〜

 さて、本ファイナンスにおいて理解に苦しむのが、「本MSワラントにはいったい何の意味があるのか」という点である。プレスリリースによれば、本MSワラントは借入金の担保?として差し入れるらしいが、こう、住友不動産ほどの大企業の信用力があるのならば、何もわざわざMSワラントを発行し担保として差し入れるようなことをしなくとも、余裕で融資が受けられるのではないかと考えてしまうところである。

 一部では、本MSワラントが行使可能になる条件の一つとして、住友不動産株へのTOBが行われることが挙げられていることから、本ファイナンスには買収防衛策の意味合いがあるのではないかと言われているが、個人的にはこの見解には否定的である。
 仮に、本MSワラントが買収防衛を主要な目的としているのならば、自分としては、

(1)金額固定型ではなく、株数固定型のMSワラントを発行する
(2)本MSワラントでは定められていない上限行使価額を定める

の2点が定められたMSワラントが発行されるはずであると主張する。
 この理由として、(1)の株数固定型のMSワラントを用いることで、予約権行使により一定比率の議決権を確保することを確実にすることができる。さらに、(2)のように上限行使価額を定めることにより、予約権行使で必要になる資金を一定限度に抑制することが可能である。特に、(2)については今回のようなローンに付属させるMSワラントであってもなんの問題もなく定めることができるものである。
 しかしながら、株価の上昇と共に上限なしに行使価額が上昇し、かつ行使により得られる株式数が減少する仕組みである本MSワラントでは、買収者に対抗するために予約権行使を行う場合、株式の取得に相手方とほぼ同じ程度の資金をつぎ込まなければならなくなるだけでなく、予約権行使により確保できる議決権比率も減少してしまうのである。
 従って、買収防衛目的で使用することを想定した場合、本MSワラントはコストパフォーマンスのよろしくない設計であると言えることから、本ファイナンスは買収防衛を主目的としたものではないと考える次第である。

 ここで気になってくるのが、現在の市況悪化に伴い、住友不動産の本業である不動産事業にも悪影響がもたらされており、不動産価格の先行きについても警戒されつつある点である。住友不動産のような不動産会社相手の場合、一般的には銀行側は不動産を担保に取るのだろうが、その不動産の値下がりをおそれているのではないかと個人的には考えるところである。そこで、今回は、不動産などではなく、ある程度株価が値下がりしてもそれほど問題がない(≒株式転換→売却により融資資金の回収ができる)MSワラントを担保にすることを考えたのではないかと推測してみる次第である。
 今回のMSワラントの下限行使価額は1,087円であり、当初行使価額2,440円の44.5%の水準である。プレスリリースをみると、この下限行使価額は2004年の時価発行増資時における発行価格(払い込み価格)に合わせる形で定めたことを示唆している(プレスリリース9ページ)ものの、下限行使価額が当初行使価額の50%未満に定められているのは住友不動産(の株主)側にとって不利な条件と言えるところである・・・住友不動産の業績・財務面で何か問題が起きているわけでもないからねぇ。 半面、本MSワラントを担保として受け取る側からみれば、下限行使価額が低くなっていることは、株価がより大きく下がった場合においても予約権行使により資金の回収が可能である、すなわち、担保としての価値が維持できるという意味合いを持ってくると思われる。
 ローンの貸し手側は、この点に着目し、今回のローンの担保としてMSワラントを用いることを考えたのではないだろうか。また、住友不動産側としても、不動産価格の下落や事業面での問題が生じたときに担保不動産がどうのこうの、資金返済がどうのこうのと言われるよりは株式数が増えてそれで終わり、という展開になった方が面倒がなくて良いということなのかも知れない。

 以上のように、住友不動産と引き受け手の間の思惑は全く異なるとは言え、MSワラントを担保として用いることに両者とも意義を見出せる事情があるため、わざわざMSワラントを発行しローンの担保とする仕組みにしたではないかと考えてみる次第である。


〜新株予約権の担保価値は? 主張〜

 さて、本ファイナンスにMSワラントが用いられた理由についてはここまでの考察で一応の説明がつかなくもないが、まだ理解しがたい点は残っている。
 ご存じの方も多いとは思うが、1月31日、住友金属鉱山(5713)が総額1,000億円相当のMSワラントの発行を含むファイナンスについて発表した。プレスリリースはこちら
 このファイナンスを巡っては、住友金属鉱山に対し、三井住友銀行により同額のローンの貸付が行われるなど、ファイナンスの仕組みとしてはある程度似ているのだが、MSワラントに関する条件は大きく異なっており、特に、下限行使価額を1,749円と発行発表日前日の終値と同額に定めている点に注目する必要がある。現在の水準から株価が下落した場合に行使価額の下方修正が行われないと言うことは、株価下落の場合はMSワラントの行使を行っても資金の全額回収はできないことになり、MSワラントが担保として十分に機能しないことを意味している。すなわち、住友不動産で行った考察が住友金属鉱山の事例には当てはまらないと言わざるを得ないのである。
 では、住友金属鉱山の事例ではなぜMSワラントが担保として用いられたかとなると、正直明確な答えは浮かばないところである。例えば、

@MSワラントの発行諸費用が20億円とやや大きいため、この諸費用を収益?として得ることで株価下落時のリスクを補っている
A住友不動産の事例とは異なり大和SMBCが一枚かんでいるため、大和SMBCが何かしらの(住友不動産の場合とは異なる)作戦を持っている
B実は住友金属鉱山の事例は、今回のような手法に対する市場の反応を見るための試作品であり、今後は住友不動産のように下限行使価額が低く定められる事例がほとんどとなる

など、いくつかの可能性は考えつくが、@はローンの担保価値を保全したとは言えず、Aはじゃあ大和SMBCにはどんな手があるんだと言われても何とも言えないし、Bは住友金属鉱山と住友不動産の事例の間隔が近すぎる上、市場の反応を見るためだけにリスクのやや大きい1,000億円の融資を行うのはちょいと危険なように思えるところである・・・まあ、住友金属鉱山(と住友不動産)が債務不履行を起こすとはほとんど考えられないところだがねぇ。
 ひょっとすると、これらの事例においては、担保であるMSワラントが株価下落への耐性があるかどうかではなく、融資の担保として新株予約権を用いていると言うこと自体が重要なのかも知れない。
 普通、担保と言えば土地なり建物なりを差し入れるが、今回の事例では、その代わりに行使に制約がついた新株予約権を差し入れているのだから、発行企業側からすればいろいろと楽なのかも知れない。一方、ローンの貸し手側としては債務不履行時のリスクは存在するものの、住友金属鉱山や住友不動産のような大企業が債務不履行なんてするはずないという認識の元、今回のような融資案件を取り扱っているのかも知れない・・・信頼関係のなせる技としか言いようがない。おんなじ勢いで新興銘柄への融資もやってくれれば面白くなるのだが、そうはならないのだろうねぇ(リスクを考えれば当然)。


 ・・・9日付日経朝刊17面によると、今回のような仕組みのファイナンスについて、『他社も準備しているもようだ』とのことである。ここで言う『他社』とは、住友グループ各社のことを指し、融資は三井住友銀行主導で行われるものであると推測するのが妥当と思われる。
 今後何社程度で今回のようなファイナンスが行われるのか、また本当に今後も今回のようなファイナンスが行われるかはまだ未知数であるが、今後も動向に注目し、本記事で明らかにするには至らなかった、「一体どのような意図で今回のようなファイナンスが行われているのか」という点について検証を行っていきたいところである。
 
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2007年04月03日

バナーズ(3011)のMSCB

 3月30日、バナーズ(3011)は30億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手はForward Value Capitalである。
 本MSCBは、転換価額修正条項にはこれと言った特徴は見受けられないが、転換価額調整条項に注目すべき条項が定められていると考えている。
 本記事では、本MSCBの転換価額修正条項の概要を述べた後に、転換価額調整条項に関する注目点について説明し、この点をどのようにとらえるべきか考察を試みる。


〜ディスカウント率10%・株式併合では転換価額調整なし 概要〜


 まず、本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は79円と定められている。また、上限転換価額は119円、下限転換価額は40円と定められている。上限転換価額は当初転換価額の約150%、下限転換価額は当初転換価額の約50%に定められており、ごく一般的な条件である。

転換価額修正条項は平凡
図1 本MSCBの転換価額修正条項の概要

 また、転換価額の修正が行われる日(修正日)は毎月第1・3・5火曜日と定められており、各決定日における修正後転換価額は、修正日前日までの3取引日の終値平均値の90%になると定められている。第1回修正日(4月17日)を例に取ると、4月12・13・16日の終値の平均値から10%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

 なお、貸株の空売りについては、『本新株予約権付社債の転換を前提としたつなぎ売り等』を目的にした借株は行うとプレスリリースからは読めるため、行われる可能性は考えておいた方が良さそうである。


 さて、本MSCBで特に目に付いた点として、転換価額調整条項(本プレスリリースの22.(4))を挙げたい。ここでは、本MSCB発行後の増資、株式分割等の場合に転換価額の調整(変更)を行う場合について説明を行っているのだが、一般的な(MS)CBには見られない一文が添えられている箇所がある。
 プレスリリース8ページ目の2行目、条文で言うと22.(4)(ホ)(ii)である。本項は普通株式数の変更が行われる場合に転換価額の調整を行うことを定めた条項であるが、『但し、株式併合の場合は除く』との記載がある。つまり、株式併合が行われる場合については、転換価額の調整は行われないと解釈できるのである。
 一般的には、株式併合が行われ、株式数が減少した場合、株価はその分高くなり(当然)、転換価額もそれに合わせる形で調整される。例えば、10株を1株に併合するような事例の場合、併合前の株価が100円だったとすると、併合後の株価基準値は10倍の1000円となり、転換価額も併合前の10倍に調整されるのが通例である。この辺は、株式分割の逆と考えていただけばわかりやすいかと。
 では、本件の場合はどうなるかというと、株式併合が行われ、株価が10倍になったとしても、転換価額の調整は行われず従来の転換価額がそのまま適用されることになると解釈できるのである。つまり、転換価額は併合後も修正日までは修正が行われず、修正日になってはじめて併合後の株価を基準に修正が行われることになる。また、上限・下限転換価額についても、併合時に変更(調整)は行われないと解釈するのが妥当であると思われる。

 仮に、あくまでも仮に、バナーズが10株→1株の株式併合を行った場合を例に取り、バナーズの株価及び本MSCBの転換価額の推移を図2にまとめてみる。なお、併合日前日の株価終値は80円と仮定している。

上方修正されてもちっともうれしくない
図2 株式併合前後の株価及び転換価額の推移

 この図からわかるように、仮に、あくまでも仮に、併合日前日の株価が80円だった場合、株価は800円近くとなる一方で、転換価額は従来(おそらくは2桁)のまま適用されることになる・・・もちろん、転換で得られる株式数が従来通りであることはいうまでもない。また、併合後初めての修正日には転換価額の上方修正が行われるが、上限転換価額が119円であるから、転換価額は119円に定められることになる。
 従って、本MSCBの引き受け手は株式併合が行われた場合、引き受け手は株価が余程下落しない限りは大きな利ざやを得られることになるといえそうである。いやだって、(上限転換価額での転換になっても)1株119円で得た株を市場で売却すれば、1株数百円で売れるんだからねぇ。

 なお、ここまでの株式併合時に関する説明は、あくまでバナーズが10株→1株の株式併合を行った場合を想定した、仮定の話であることを改めて強調する次第である。


〜有利発行の黙認? 考察〜


 本MSCBの転換価額調整条項は、株式併合が行われればと言う条件付ではあるが、一般的なMSCB等とは比べものにならない大きな利幅を得られる可能性がある代物である。となると、これは有利発行に当たるのではないかという考え方ができるかもしれないが、この点、なかなか美しい仕組みを作っていると言えるのではないかと感じるのである。
 株式併合を行うためには、株主総会の特別決議を経る必要があるのは皆様ご存じの通りである。となると、今回の転換価額調整条項がその真価を発揮するためには、特別決議が必要と言うことができ、株式併合決議の議決権を行使する株主が、併合が行われた場合に転換価額の調整が行われないことを承知しているのだとすれば(←ここ重要)、事実上、転換価額の調整に関する件についても、黙認を与えたという考え方ができるように感じるのである。

 本MSCBの転換価額調整条項における株式併合に関する特例?条項は、本MSCBが第2回及び第3回CB(MSCBに非ず)を借り換える目的(代用払込)であることが影響していると思われ、財務面で特に大きな問題を抱えているわけではない企業が(MS)CBを発行する場合に付与される可能性は極めて小さいと思われる。
 一方で、3月29日に発行が発表されたクインランド(2732)のCB(MSCBに非ず)にも、本MSCBと同様に、転換価額調整において株式併合の場合を除外する記載がある(プレスリリース)ことを考慮すると、今後、財務面での問題を抱える企業のファイナンスではこの条項が付与されることが多くなることも考えられるため、今後は転換価額修正条項だけではなく、転換価額調整条項の記載にも用心する必要が出てきたと考える次第である。
 
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2007年03月24日

日経ビジネス3月19日号のMSCB関連記事に対する論評並びにつっこみ

 既にご覧になられた方もいらっしゃると思うが、日経ビジネス3月19日号に、『集中リポート 自壊する新興企業』シリーズ第2回として、MSCB関連の記事が掲載されている。先日、掲載誌を頂いたので、せっかくだから記事につっこみを入れてみることとする。
 なお、先月自分が受けた取材は本記事向けではないかと推測されるが、自分への取材内容についてはほとんど反映されていなかった・・・残念。そもそも当HPのMSCB関連の記事は技術的?なことが中心であり、人のつながり等、インパクトのあるものは苦手・・・と言うかそもそもおまけ程度との認識であるから、致し方ないところである。


 さて、記事は主にモック(2363)および軽貨急配(9374)のMSCB関連の話を軸に進んでいく。

 まず、モックにおいては、わけあり企業の増資と、その増資を引き受けるファンドのみなさんについて述べている。
 個人的には、ここに出てくるようなファンドのみなさんのやり方(MSCBでないと引き受けに難色を示したりする点など)については、それほど悪い印象を持っていない。こう、これだけリスクのある銘柄のファイナンスを引き受けるのだから、MSCBのような有利な条件でなければ引き受けたくないというのが自然であろう。
 もっとも、引き受けるのが事前の資金払込がほぼゼロでよい新株予約権なら(気持ちはよくわかるが)また別の話である。
 
 自分が問題視するのは発行企業側の姿勢である。記事中では、モックの山田納生房社長(なんでプレスリリース記載の名前と漢字が違うのだろう)は一生懸命企業の立て直しを図ろうとしているように見えるが、実際のところは『希薄化うんぬんじゃない(06/12/20日経16面より)』とか言ったりする人であることにも触れるべきではないかと思うところである。
 そもそも、MSCBによる資金調達を企業側が望まなければ、MSCBは発行されるはずがないのだからねぇ・・・ここら辺はちょいと不満が残ったところである。
 
 なお、67ページの表で、04年4月6日に45億円のCBを発行したとの記載があるが、このCBは転換価額の修正条項がついており(参考)、当HP的にはMSCBと呼ぶものである。
 はっきりしたことはわからないのだが、証券業界?では転換価額の修正間隔が半年以上のものについては、転換価額の修正条項があってもMSCBとは呼ばないこともあるようである。自分としては、転換価額(Strike Price)の修正(Moving?)が行われるCBは、全てMSCBと呼ぶ方がすっきりすると思うのだがねぇ。
 

 一方の軽貨急配であるが、MSCBで株価が下落したあとの株式併合について述べている。が、この軽貨急配の事例については、自分は記事のつっこみどころはちょいと的はずれなように思うのである。
 記事中では、併合後の少数株主の権利保護を問題視しているが、この点については、株式併合と同時に1単元の株式数を100株→10株に変更することが決議されており(プレスリリース)、少なくとも、現在市場で株式を売買している投資家には悪影響は及ばないため、それほど重大な問題ではないと考える次第である。
 どちらかと言えば、併合後にさらなる株価下落余地が生まれ、株価が下落しがちな点の方が重要だと思うのだがねぇ。まあ、併合は株価に中立と言うのも確かであるから、あまり強く言えない面もあるか。

 なお、記事の最後に、『もちろん、業界も手をこまねいているわけではない』という切り出しで先月日本証券業協会が発表したMSCB発行に関する規制が簡単に紹介されているが、手をこまねいているわけではないのは引き受け手側も同様であり、偶然にも軽貨急配を舞台にその兆候が現れはじめている。
 本年1月、軽貨急配はTAF壱号投資事業組合とコミットメント契約を締結した(プレスリリース)が、この契約では、MSCBは複数回にわたり、順次発行決議及び実際の発行が行われると定められている。
 このような手法でMSCBの発行が行われると、発行決議時点での発行済み株式数をベースとしたMSCBの転換制限(=1ヶ月に転換可能なMSCBの額)では、既に転換された株式についても発行済み株式数に加算されるため、一度に発行決議を行う場合よりも緩いものとなってしまう。この手法は転換制限を完全に無効化するわけではないが、引き受け手にとっては転換価額の下落(による転換株式数の増大で転換制限に引っかかること)をあまり気にせずに転換が行える便利な仕組みと言えそうである。
 しかも、本手法はまだまだ発展途上である(と言うかそもそも転換制限の回避を目的としたものではなさそう)と言えそうであり、そう遠くないうちにより洗練された仕組みが出てきてもおかしくないところである。当面は、MSCBではなく行使価額修正条項付新株予約権(MSSO)で、本件のような複数回(逐次)発行が行われる事例が出てくるか注視したいところである。


 まあ、そんなわけで、まだまだ『限界企業の延命』は続きそうである。誰のためかと言われれば、得をする人間に決まっているわけで、損する人間は損する人間なりに対応を考えるほかなさそうである。
 
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2007年02月27日

日本証券業協会のMSCB規制に関する論評

 22日、日本証券業協会(以下日証協)はかねてより議論していた引受審査のあり方やMSCBの取り扱いのあり方等についてまとめ、報告書の形で発表した。公表された報告書のPDFファイルはこちら

 本記事では、当ブログ的に重視しているMSCBに関する部分について、実際に意味を持ちそうな部分を中心に論評してみることとする。


 さて、まずはこの報告書のMSCB関連の分科会メンバー紹介ページをご覧いただきたい。今回MSCBに関して議論したみなさんと、その所属証券会社が紹介されている。
 まず、自分はこの輝かしい面々に圧倒された。こう、「うおっ、昨年MSCB引受額ナンバーワンの野村から主査が出ている!当然か!」とか、「数々の斬新なMSCBを輩出しているUBSが末席とはどういうことだ!」など、一行毎につっこめるようなメンバーが揃っているのである。
 また、ここに名を連ねているのは、全て証券会社(と、オブザーバーとして証券取引所)で、主要なMSCBの引き受け手の一つであるファンドのみなさんが全く参加していないことを見ると、今回のMSCB規制は、あくまで日証協の自主規制なんだな〜と言う事をはっきりと印象づけられる次第である。
 そう、今回のMSCB規制は、あくまで日証協に加入している証券会社が引受を行う事例のみに適用される規制であり、ファンドや、一般の会社など、日証協に加入していない引き受け手が関わる事例に関しては適用されないのである。まあ、適用に向けて努力するようなことは書いてあるが、ファンド等への本規制の全面適用は困難であると思われる。


 17ページ(PDFファイルのページではなく、報告書中に記されたページ番号。以下同じ)には、今回の規制が適用される範囲について述べられている。
 今回の規制は、転換(行使)価額の修正が行われるCB、新株予約権、種類株が該当すると明記されているから、MSCBの他、MSSO(行使価額修正条項付新株予約権、MSワラント)や普通株への転換が行われる優先株についても適用される模様である。今回の報告書では、これらを総称し「MSCB」と記している模様である。ちょっと紛らわしい。
 なお、転換価額の修正が半年以上の間隔をあけて行われる(≒転換価額の修正が年2回以下である)場合については今回の規制は適用しないとされている。まあ、頻繁に転換価額が修正されるわけでないのなら、市場への影響はそれほど大きくないと言う認識だろうねぇ。自分は警戒するけど。


 18ページから始まる「2.会員がMSCBを買い受ける際の留意事項」において議論されている事項については、実質的には全て無意味なものであろうと見なしている・・・またとない稼ぎの機会を見送れる人が、果たしてどれくらいいることやら。
 まあ、適当な言い訳が1ページくらいプレスリリースに追加されて終わりではないかと。


 22ページから始まる「3.MSCBに係る流通市場における取引のあり方」では、MSCBの転換価額修正を算出する期間におけるMSCB引き受け手の株式売却制限が述べられている。
 これについて簡単に述べると、

@終値を用いて修正後転換価額を算出する場合は、大引け前15分間の株式市場売却禁止
AVWAPを用いて修正後転換価額を算出する場合は、直近10日間の平均出来高の25%以上を市場売却する事を禁止(=1営業日に売っていいのは直近10営業日の平均出来高の25%以内まで)

となっている。なお、@Aいずれの規制も、株価が発行決議日の終値以上の場合、もしくは下限転換価額を下回っている場合には適用されない。
 これらについては、悪い話ではないのだけど、果たしてどれだけ実効性があるのかな〜と言う疑念を持っている。

 @については、株式売却を禁止する範囲をどこまで広げるかによっては、あまり意味がないと見なされるかもしれない。
 仮に引受証券会社が売却しなくとも、海外支店(ここはよくわからない)や提携先?の証券会社が売ったりするのではないかという疑問はあるし、証券会社自身ではなく、証券会社と関係が深い(例:野村證券・野村アセットマネジメントのような関係)投信が売った場合でも、両者が連動しての作戦ではないかとの疑念が生じることは考えられる。

 Aについては、自分は1日あたりの出来高のおおむね4分の1以上を自社(引き受け手)の売却が占めてはいけないと言う意味ととらえている。
 この4分の1という数字は、かなり大きい数字であり、実際に引き受け手のみなさんはそれだけの数量を売りさばいているのかな〜?と不思議に思っているのである。
 個人的には、5%ルールで確認できるMSCB引き受け手の株式市場売却数量が1日の出来高の5%を超えると株価に影響を与えずに売りさばくことは困難になり、10%を超えると株価が下落することが多くなると言う経験則?らしきものを持っている。そこからすると、25%はかなり多いと感じるのである。
 この辺については、相場が急騰して直近出来高が急増した(が、10日平均出来高はまだ追いついてきていない)状況なんかを想定して緩めに定めたのではないかと思うが、その分、規制の実効性が損なわれる結果となってしまっているのは残念である。


 24ページからの「市場の公正性及び既存株主への影響に配慮した商品設計のあり方」は個人的には最重点項目と見なしている。
 この項目での議論のうち、転換下限価額への制限(フロア水準規制)を設けなかったのはあんまり好ましくはないが妥当だと思う。MSCBでの資金調達を望む企業の場合、まともな条件(普通のCBなど)では引き受け手がいないからこそMSCBを発行する企業が多いのだから、転換下限価額に制限を付けたりすると、いくつかの企業は資金調達ができず、退場を迫られることになりかねないと思われる。まあ、そう言う企業はさっさと退場すべきだという議論があるのも承知の上なのではあるが。

 一方、今回採用されることになった、一月当たりの転換規模の制限(転換スピード規制)は、引き受け手の売買戦術にかなりの影響を与えるものと推測される。特に重大なのは、転換制限が、MSCBの金額ではなく、株数(払込日時点における発行済株式数の10%)で規制される点である。ただし、この規制は、株価が発行決議日の終値以上である場合は適用されない。
 この規制が引き受け手にとって厄介なのは、株価が下落し転換価額が下方修正された場合、転換可能なMSCBの額(転換価額×株数)もそれにつれて減少する点である。この場合、MSCBの転換はより長期間をかけて行う必要があり、それを引き受け手がリスクと見なす可能性がある。
 当ブログで昨年の最凶MSCBと評価している双日(2768)のMSCBは、本年1月には合計で約1億4650万株分が転換されており、これはMSCB発行発表時点における発行済株式総数約4億0400万株の約36%にも達するのである。こういった大規模な転換が規制されるわけであるから、仮に、転換価額が下落して転換株式数が増えるような状況になると、引き受け手は長期間かけてMSCBの転換を行わなければならなくなることから、そこら辺のリスクが警戒される可能性が出てくると思われる。


 これらを考慮すると、今回の日証協規制はMSCB等の条件に以下のような影響を与える可能性があると考えている。

@転換価額の修正に、終値ではなくVWAPが用いられる事例が多くなる
AMSCB等の発行規模(金額)が小さくなる
B予約権行使により得られる株数が一定数に定められるMSSOの発行が増加する

 @は、引き受け手の証券会社的には、大引け15分前に市場売却できなくなることと、出来高平均の25%以上の株式を売却できなくなるのと、どちらが不便かな〜というのを考慮すると、後者の方が大分ましなのではないか、と推測してみた次第である。
 と言うか、前者のような縛りがかかると、自己売買部門のみなさんとエクイティ部門?のみなさんが揉めたりしないのだろうか・・・まあ、そこら辺は社内的に何とかするのだろうがねぇ。

 Aは、転換スピードに制限がかかるので、転換が長期間に及ぶことが確実な大規模なMSCBの引受は敬遠されがちになるのではないか、と言う推測である。
 ただ、その代わりに、MSCBとMSSOの併用が拡大するかもしれない。MSSOの場合だと、例え株価が予約権を行使してもうまみがない水準になったとしても買い入れ消却すれば損害ゼロだからねぇ。

 Bは、Aと同様に、転換スピードの制限が原因である。予約権行使で得られる株数が一定(で払込金額が変動する)方式のMSSOならば、予約権行使のスケジュールも立てやすいはずである。
 なお、転換株式数が一定数に制限されたMSCBとして、UBS証券引き受けで発行されたアイディーユー(8922)のMSCB(当ブログの考察記事)を挙げることができるが、資金の動きが複雑化したり、転換株式数一杯まで転換した場合は残り(未転換)のMSCBが塩漬けとなるなど、引き受け手にとってはあまりよろしくないことが多いように思うので、一般化する可能性は小さいと考える次第である。


 ・・・と、まあ、ここまで延々と語ってきたが、そもそも会員証券会社自身がちゃんとこの規制を守る気があるかな〜という根本的なところも疑ってみたりする次第である。
 もちろん、本体で堂々と破る気はないだろうが、(今回の規制の対象外となる)ファンドでいろいろやるなど、その気になれば抜け道は簡単に見つかるような気がしてならない次第である。
 ひょっとしたら、現在は会員証券会社に在籍しているMSCBのプロフェッショナルなみなさんが、続々とその手のファンドを作られるような事態になるかもしれない。それはそれであんまり良くないような気もするがまあいいのだが、問題は会員証券会社自身がそう言うファンドや関連会社を作ったりしないか、という点である。
 ここだけの話、タックスヘイブン?に無関係を装った引受を行う会社を作られたりしたら、日証協でも見抜くのは困難だろうねぇ。


 以上を総合すると、今回の日証協の規制は、MSCBの発行を抑制する意図を持って行うものではなく、極端な問題事例を排除しようと意気込んでみたものであると見て良さそうである。その意気込みがどこまで報われるかはわからないがねぇ。
 ・・・と言うことで、自分としては、当ブログの看板記事であるMSCB関連記事がネタ切れになる心配はしなくても良くなったわけである。いや、ライブドア崩壊後は自分が1株株主をやっていたライブドア関連記事が書けなくなって、結構ネタに苦しくなった時期があったからねぇ。
 ・・・めでたいんだかめでたくないんだか。
 
 (2/27 本規制がファンド等に適用されないことを説明する文章を加筆しました)
 
posted by こみけ at 01:57| Comment(7) | TrackBack(1) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月04日

春日電機(6650)のMSCB

 1月30日、東証二部上場の春日電機(6650)は20億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手は、JASDAQ上場のビジネスバンクコンサルティング(3719)の子会社が関与する投資組合である。
 本記事では、本MSCBの転換価額修正条項の概要について説明した後、会社側が語る感動的な発行理由へのつっこみなどを交えつつ、MSCBの存在意義やあるべき姿についても想いを馳せてみることとする。

〜毎週修正・ディスカウント率10% 概要〜

 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は208円に定められている。また、上限転換価額は500円、下限転換価額は100円に定められている。プレスリリース中では、会社側は一株純資産及び希薄化の程度を参考に下限転換価額を100円に定めたとしているが、多くのMSCBが下限転換価額を当初転換価額の50%に定めていることを考慮すると、今回の下限転換価額の設定は、一般的な事例からかけ離れた金額ではないと言えそうである。まあ、そもそも当初転換価額が発行発表時の株価(221円)を下回る値に設定される、というのはあまりないから、その分は考慮しなければならないがねぇ。
 また、転換価額の修正が行われる日(決定日)は毎週金曜日と定められており、各決定日における修正後転換価額は、決定日までの5取引日の終値平均値の90%になると定められている。第1回決定日(2月16日)を例に取ると、2月9・13・14・15・16日の終値の平均値から10%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

それほど特徴がある条件ではない
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要

 なお、貸し株については、取締役から借株を行う可能性を明記する一方で、本件(本MSCB)に関わる空売りを目的としては借株を行わないとしている。と言うことは、別件?名目で空売りが行われる可能性はあると言うことで、そこら辺への警戒は少なくとも行うべきであると考えるところである。

〜資金需要の質 主張〜

 今からおよそ2年前、ライブドアがMSCBを発行した際の資金使途は「ニッポン放送の買収資金」というこの上なく明確なものであった。その後も(それ以前からだが)会社再建のための資金、事業拡大の資金、運転資金、M&A資金、優先株消却の資金など様々な用途でMSCBやMSSO(行使価額修正条項付新株予約権)の発行が行われてきた。
 だが、本MSCBの調達資金使途の一つは「信用取引の損失で毀損された自己資本の早期回復(管理人意訳:信用取引で出した損の穴埋め)」というこれまでにない感動的使途であり、「個人ではできないことも、上場企業ならいとも簡単にできるのだな〜」という想いを抱かずにはいられない事例となった。
 まあ、ほぼ時を同じくしてCB(MSCBに非ず)及び新株予約権の発行を発表したバナーズ(3011)は、「信用で痛手を被ったので今後は現物中心でがんばります」的宣言を発行発表のプレスリリース中で行い、ある意味春日電機の上を行っていたりするわけだが、正直どっちもどっちのような気がしないでもないところである。

 今回の春日電機のような事例であると、(既存株主にとっては腹立たしいこと極まりないだろうが)資本調達の手段は、多少(有利発行にならない10%以内)のディスカウントがあったとしても、公募や第三者割当増資では困難と思われ、有利発行の第三者割当増資、もしくはMSCB等の株価下落リスクが少ない手法でなければ困難であるというのが自分の考えである。株価下落リスクが高すぎるからねぇ。
 この辺、そもそもこういう理由で資金調達をすること自体が是か非か、と言う論点を抜きにすれば、MSCBでの資金調達は完全に否定されるべきものではなく、希薄化の問題はあるにしろ、信用力が劣る企業が緊急に資金調達を行いたい場合に用いる手法として、一定の存在意義がある事を認めざるを得ないと主張する次第である。
 一方で、そのような手法で資金調達を行う場合でも、既存株主に犠牲を強いる手法なのであるから、株主総会で株主の賛同を得た上で調達を行うように(ルール整備を含めて)するべきであると主張するところである。
 また、そのような犠牲を当然視する(≒何度も問題ある資金調達を行う)企業に対しては、投資家側による選別を行うことがもっとも効果的ではないかと考える次第である。
 
posted by こみけ at 20:06| Comment(4) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月23日

日本証券業協会、MSCB等を用いる資金調達に新ルールを設ける

 既にご覧になられた方も多いと思うが、23日日経朝刊1・16面にて、日本証券業協会(以下日証協)がMSCB等を用いる資金調達に新たなルールを定めると報じている。記事はこちら
 また、日経テレコンで紙面と同じ内容を読むことができるので、興味のある方はご覧くだされ。

 んで、この新ルールであるが、日証協が正式発表をしていないので断言はできないのだが、少なくとも紙面で報じている内容を見る限りでは、全く無意味なものである。
 一番の問題は、MSCB発行時に審査を行うと言うが、その審査を行うというのが(MSCBの引き受けを行う)引受証券会社という点である。これでは審査がまともに機能するわけがない・・・MSCBの引き受けで誰が一番利益を上げているのかを考えれば、簡単にわかると思うのだがねぇ。
 また、引受証券会社に課すという空売りに関する制限についても、制限は引受証券会社のみに課せられると言うことになると推測される。つまり、貸し株をどこかに又貸しして空売りさせればこの規制は容易にすり抜けることが可能であると思われる。まあ、そもそも引受証券会社が規制を本当に守るかどうかも怪しいわけだが。

 ・・・と、いうことで、今回の日証協の新ルールは、日経16面の記述を借りれば『投資家に引き受け姿勢の健全性をアピールする』ためだけのものであり、実際には今までと何ら変わらない(か、さらに進化した)ファイナンスが引き続き行われるものと考える次第である。変化するとしたら、発行発表のプレスリリースに、延々と言い訳を並べたどうでもいい文章が1ページ分くらい追加される程度なのではないのかねぇ。
 ひょっとしたら、本年3〜6月くらいまでは(新ルールへの対応のため)これらのファイナンスが減少するかもしれないが、まあ年内にはもとのペースに戻るのではないだろうかと推測するところである。
 
posted by こみけ at 20:16| Comment(2) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月24日

06年おもしろIR・ファイナンスを選んでみた

 今夜は巷ではクリスマス・イブらしい。例年ならここでクリスマスを呪う言葉を一言二言吐くところであるが、毎年それだと人間進歩がないので、ここは一つ今年数多く出されたIRやファイナンスのうち、特に面白いものを選りすぐって紹介してみることにした。
 なお、以下の選定はあくまで管理人の独断と偏見で行ったものであり、取りこぼし等多数あると思うが、その辺はご容赦を。


 まずは、MSCB・MSSO(行使価額修正条項付新株予約権)以外のIR・ファイナンスの紹介である。

○おもしろIR
 今年は新興市場が不調だったこともあるのか、おもしろIRは例年になく多かった印象がある。特に、誤植・訂正は数多く、この辺をしっかりチェックする人材・社内管理体制が弱まっているのではないかとの危惧を抱かせるものであった。
 以下では、その中でも自分が本年もっとも面白かったと感じた5件のIRをご紹介させていただく。

第1位 バーテックスリンク(9816) 当社子会社の業務委託契約解除に関するお知らせ
 第1位は間違いなくこれである。資金調達の支援を取りやめると言うだけでも大事だというのに、その理由の一つが「電話にも出ない」と言うのであるから爆笑ものであった。

第2位 アーティストハウス(3716) 第三者割当に関する新株式の発行に関するお知らせ
 発表の数時間後には、引き受け手の住所がマンスリーマンションだと多くの人が気づき、参加者の皆様を感動の渦に引き込んだ一品である。
 プレスリリースを見ただけで感動できるバーテックスに比べ、こちらはマンスリーマンションのことを気づかないと感動できない点が1位2位の差となった。

第3位 日興コーディアルグループ(8603) 本日の一部報道について
 何も申し上げることがござらないのならわざわざプレスリリースを出さなくてもいいだろうに、しっかり出したことで皆様の注目を集めた一品である。
 ここで「内容のある発表をしろ」と怒るのではなく、「なんとサービス精神旺盛な会社なんだ」と感動するのがおもしろIRとつきあっていくコツであると思う。

第4位 カーチス(7602)他ライブドアグループ 親会社の決算に関するお知らせの一部訂正
 今年は各社で誤植や発表内容の訂正が相次いだが、その中でももっとも爆笑ものだった訂正は間違いなくこれだと主張する。一方で、間違われた方はさぞ腹が立っただろうねぇ。

第5位 ユーシン(6985) 平成18年11月期 第三四半期 財務・業績の概況(連結)
 決算短信そのものはちゃんと記載されているのに、なぜか社名だけが記載されていないと言う珍内容である。こう、「おまいらわかってんだろ」的行動かとも思ったが、その数時間後に訂正のプレスリリースが出て一件落着。社内で誰かが責任とらされたのだろうか。
 しかし、この間違いをもしトヨタがやったりしたら、傲慢の証ととられたかもしれないねぇ。


○注目優先株
 02〜03年頃多く見られた優先株。発行頻度は次第に減少しているが、現在も時折発行が行われている。自分が今年特に注目したのは以下の銘柄である。

三洋電機(6764) 第1回優先株式
 転換価額70円の優先株を発行し再建を進めるも苦戦が続く三洋電機。来年はいよいよこの優先株が転換可能になる。その際、かつて三菱自動車で起きたような暴落が起きるのか、それとも何も起きないのか、動向に注意を払っておきたい。


○注目CB
 CB発行の際「MSCBではない」と言うだけで安堵する風潮が最近特に新興市場で感じられるが、CBといえども条件面はしっかり確認しておくべきである。以下は自分が特に注目している代物である。

エフティコミュニケーションズ(2763) 第1回CB
 本CBはMSCBではない・・・が、毎年3月末の1株あたり純資産額が転換価額を下回った場合、転換価額が1株あたり純資産額に調整されると言う条項が定められている(新株予約権に関する事項(8)B)。
 なお、同社の1株純資産は9月中間決算時点で転換価額の半分以下(その上株価の半分以下)であり、今期の業績予想を見る限り、今期決算短信が発表された時点での転換価額(下方)調整はほぼ確実である。


○06年凶悪銘柄特別賞
・ライブドア(旧4753)
 説明不要であろう。本年1月16日の強制捜査翌日から、流れは一変した。新興市場の大暴落、東証停止、そして他銘柄や村上ファンドへの波及など、今年の株式市場にもっとも大きな影響を与えた銘柄と言って良いだろう。
 自分も株主として出席した6月の臨時株主総会では、人間の負の側面をまざまざと見せつけられ人生勉強になったものである。



 さて、ここから先はMSCB・MSSO関連の紹介である。

○MSCB関連注目IR

 ファイナンス等を行う際は、企業よりプレスリリースが発表される。そこには、ファイナンスの内容そのものだけでなく、会社側の解説、いいわけ、契約、アピールその他諸々が記載されている。
 以下では、その中でもMSCBの今後の動向を考察するのに重要と思われたり、大変な問題をはらんでいると思われたIRを紹介してみる。

・クインランド(2732) 第三者割当による新株予約権発行および無担保転換社債型新株予約権付社債の発行中止に関するお知らせ
 MSSO及びCB(MSCBに非ず)の発行やり直しに関する発表であるが、発行やり直しの理由がプレスリリースの誤記載とは困ったものであった。
 でも、このまま発行されていたら会社側が大嘘つくことになりかねなかったので、やり直さないよりはましであった。

・デザインエクスチェンジ(4794)  第三者割当による新株予約権発行に関するお知らせ
 定款でMSCBの発行制限を定めていたが、MSSOの発行は法的に問題ないとの主張を行いMSSOの発行による資金調達を行った。
 今後、他企業でも同様の動きが出てくることも予想され、注意が必要である。
 こういうときに弁護士に法的見解を聞くのはいいと思うのだが、見解を述べた弁護士の氏名を明記して欲しいねぇ。有力な判断材料になり得ると思うのだが。

・アーティストハウス(3716)  第三者割当による第4回無担保転換社債型新株予約権付社債発行及び第13回新株予約権発行に関するお知らせ
 取締役会で決議していたMSCB発行制限決議を撤回の上、MSCBの発行を決議した。制限決議の撤回とMSCB発行の決議を同時に行うのはどうかと思うが、まあ厳しい状況なのだろうねぇ。
 ただ、こういうことが今後他企業で起こりうると言うことは念頭に置いておくべきである。


○注目MSCB・MSSO
 本年も実にたくさんのMSCB・MSSOが発行された。ここまで盛況だと、来年は規制が行われると言う話(噂?)がどこまで本当なのか疑念をはさみかねない状況である。まあ、駆け込みで発行しているという考え方もできるが。
 以下では、本年発行されたMSCB・MSSOのうち、特に目立った条件のものについて簡潔に述べてみる。

アドテックス(旧6739) 第2回MSCB
 転換価額の修正は下方修正のみ、下限転換価額もなしという極めて厳しい修正条項が定められたMSCBである。一方で、発行発表時点でアドテックスは債務超過の状況であり、しかも監理ポスト入りしていたのであるから、このくらいの条件でないと引き受けたくないと言うバーテックス側の言い分もわかるという救いようのない代物であった。

オープンループ(4831) 第11回MSSO
 ドリームテクノロジーズのMSCB・MSSOで導入された下限行使価額の下方修正条項を導入したり、当初行使価額をやたらと高い水準に設定し希薄化が小さいように見せかけるなど、多くの注目すべき特徴があったが、クオンツの発行差し止め仮処分申請により発行中止になった。

ゼンテック・テクノロジー(4296) 第3回MSCB
 転換価額の修正が上方修正のみ行われると言うこれまでに見たこと無いタイプのMSCBである。引き受け手のUBSがどのような手法で転換し、得た株式をさばいていくか注目したい。

アライドテレシスホールディングス(6835) 第10回MSSO
 今年は経営者が第三者割当増資やCB、新株予約権を引き受ける事例がいくつか見られたが、その中で自分がもっとも注目したのが本件であった。運転資金の調達をMSSOでやるなんて合理的でない、と思いきや、結局行使されないまま買い入れ消却されてしまった。何がやりたかったのやら。


○06年注目プレイヤー(引き受け手)
 MSCBは発行したい企業だけでなくそれを引き受ける企業がいて初めて発行が行われるのである。自分としては、今年は以下の2社が引き受け手として特に活躍したと考えている。ライブドア証券が脱落したのがちょっとさびしい。

・UBS証券
 ライブドア証券が脱落した今、MSCBの開発と発展を支えるパイオニアとして君臨するUBS。今年もアイディーユー(8922)、ゼンテック・テクノロジー(4296)等、市場から注目される企業から新型のMSCBをいくつも引き受ける輝かしい実績を残した。
 来年は、東証や日本証券業協会が検討中というMSCB等に対する規制を乗り越えさらなる発展を見せるのか、その動向が注目される。

・野村証券
 双日(2768)、富士フイルム(4901)の2銘柄だけで計5000億円に上るMSCBを引き受けるなど、MSCB市場?の規模拡大に大きく寄与した野村証券。せっかく商標までとった「MPO」の名称はちっとも浸透しない(笑)が、来期以降、さらなる規模拡大を目指すのだろうか。


 さて、当HPが選ぶ本年最凶のMSCBは以下である。昨年はフォーサイド(2330)のMSCBがダントツで最凶であったと考えているが、今年も他を大きく引き離しての最凶事例であると自信を持っておすすめ?する。


○06年最凶MSCB
双日(2768) 第3回・第4回MSCB
 本年最凶のMSCBとして管理人が選定したのが、3000億円と過去最高の発行額となった双日の第3回、第4回MSCBである。
 発行規模がMSCBとしては過去最大であるだけでなく、時価総額を上回る発行規模であること、発行目的である優先株の償却は、期間利益で償却する予定であった事を示唆していたのにMSCBの発行での償却となったこと、そして株価の急落、さらには毎月の転換額を月300億円以内としていたにもかかわらずそれ以上の転換を事後報告のみで行ったことなど、総合評価?で群を抜く代物であった。そして、発行から半年以上経った現在もなお転換が続いている。
 まあ、自分がこうして書くよりも、この神動画をご覧頂ければ双日ホルダーのみなさんの腹立ち具合をお察しいただけるのではないかと。あと、ついでにおまけ(Eトレード IBダイワ)。



 さて、本年活躍したみなさんの紹介は終わったが、せっかくだから、自分が来年の活躍を期待している引き受け手のみなさんを以下に紹介させていただきたい。

○07年注目プレイヤー(引き受け手)
・UBS証券
 今期に引き続き、MSCBの新しい境地?を開き続けていくことができるか、注目していきたい。

・クオンツ(6811)
 オープンループのMSSO発行差し止めや、アーティストハウスのMSCB引き受けなど、最近MSCB関連で活発に活動しているニューカマー(「成長株」と言う表現は誤解を招きかねないので(笑))である。ライブドア証券の穴を埋める存在まで成長できるのか、その動向に注目したい。

・日本政策投資銀行
 12月、リプラス(8936)のMSCBを引き受けたことにより、自分の知る限り政府系金融機関での初めてのMSCB引き受けを行った。条件は比較的悪くないものであったが、今後も引き受けを続けるかどうか注目したい。


 それでは、以下に各部門のまとめをすることで本記事を締めさせていただく。


○おもしろIR
第1位 バーテックスリンク(9816) 当社子会社の業務委託契約解除に関するお知らせ
第2位 アーティストハウス(3716) 第三者割当に関する新株式の発行に関するお知らせ
第3位 日興コーディアルグループ(8603) 本日の一部報道について
第4位 カーチス(7602)他ライブドアグループ 親会社の決算に関するお知らせの一部訂正
第5位 ユーシン(6985) 平成18年11月期 第三四半期 財務・業績の概況(連結)
○注目優先株 三洋電機(6764) 第1回優先株式
○注目CB エフティコミュニケーションズ(2763) 第1回CB

○06年凶悪銘柄特別賞 ライブドア(旧4753)


○MSCB関連注目IR
・クインランド(2732) 第三者割当による新株予約権発行および無担保転換社債型新株予約権付社債の発行中止に関するお知らせ
・デザインエクスチェンジ(4794)  第三者割当による新株予約権発行に関するお知らせ
・アーティストハウス(3716)  第三者割当による第4回無担保転換社債型新株予約権付社債発行及び第13回新株予約権発行に関するお知らせ
○注目MSCB・MSSO
・アドテックス(旧6739) 第2回MSCB
・オープンループ(4831) 第11回MSSO
・ゼンテック・テクノロジー(4296) 第3回MSCB
・アライドテレシスホールディングス(6835) 第10回MSSO
○06年注目プレイヤー(引き受け手)
・UBS証券
・野村証券

○06年最凶MSCB 双日(2768) 第3回・第4回MSCB


○07年注目プレイヤー(引き受け手)
・UBS証券
・クオンツ(6811)
・日本政策投資銀行


 ・・・来年末もまたこういう企画ができればうれしいな。

(12/25 バーテックスリンクのIRに関する記述に一部誤りがありましたので修正しました)
 
posted by こみけ at 23:53| Comment(6) | TrackBack(1) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月22日

アーティストハウス(3716)、MSCB発行制限決議の撤回を宣言する

 22日、アーティストハウス(3716)はMSCB及びMSSO(行使価額修正条項付新株予約権)の発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手は、先日オープンループ(4831)のMSSO発行差し止めの仮処分で注目を浴びたクオンツ(6811)である。

 アーティストハウスは、プレスリリース冒頭でも述べているとおり、昨年MSCB発行制限に関する取締役会決議を行っていた(発行制限決議のプレスリリース)。これは、今後MSCBを発行しないことを宣言するものであったが、今回は、取締役会で(この発行制限に関する決議を)取り消すことを決議した上での発行であるという。
 かつて、定款でMSCB発行を制限していたデジタルエクスチェンジ(4794)は、MSCBではなくMSSOの発行を行うことで自らの制限をすり抜けた(当ブログの記事)が、アーティストハウスはその作戦をとる余裕はなかったと言うことになる。

 んで、アーティストハウスがわざわざこのような撤回宣言まで行ってMSCBによる資金調達を行う理由であるが、会社側によると『確実に払込が実行されるスキームを確保するため』とのことである。
 本年後半に入ってから二度に渡り(第三者割当増資での)資金調達がうまくいかなかったことから、資金繰りが苦しくなった上でのやむを得ない選択と言えそうである。資金使途が借入金返済と既に決まっているだけでなく、調達資金の大半をブリッジローンで前借りする事を考えても、かなり切羽詰まっているに違いない。
 MSSOは行使されて初めて資金の獲得ができる調達手法であるから、入金まで時間がかかる上、確実に資金獲得ができるとも限らないため、やむを得ずMSCBでの資金調達を選択したものと思われる。
 この辺、MSSOでの資金調達を行う場合の、発行企業から見た短所が実にわかりやすい形でにじみ出ていて美しい。しかも、これまで複数回MSSOを発行してきたアーティストハウスからにじみ出てきているのだから、殊更である。
 ・・・MSCBでの資金調達しか生き残る?道がないと言うのなら、発行制限決議の撤回はやむを得ないのかもしれない。撤回決議とMSCB発行決議を一つのプレスリリースで発表するのはどうかと思うが。
 まあ、現在のアーティストハウスはこういう状況で、以前こういう宣言をしましたが、このたびこういうやむを得ない事情によりその宣言を撤回します、と言う(プレスリリースに書かれた)ありのままを受け入れればよいように思える・・・それで十分かと。うん。

 なお、その下の、『但し、当該撤回決議は、出来るだけ多くの利益を株主の皆様に還元するという当社の株主重視の基本方針を変更するものではありません。』と言う一文に対して、「おまいら上場してから一度も配当していないし、そもそも利益を出したのも(上場後は)上場した当年だけじゃないか」と言うつっこみを入れるのは、お約束ではあるが、いまいち面白みのない行動のような気がする次第である。


 そうそう、本MSCBの転換価額修正条項については、基本的にはこれと言った特徴のない代物であるが、会社側が繰り上げ償還を宣言した場合は条件が違ってくるので注意が必要である。
 第6項(9)Aに記されているように、繰り上げ償還宣言以降は、それまで(@)とは異なる転換価額修正条項が適用されることになるから、(@には明記されているがAには記載されていない)下限転換価額は適用されなくなると解釈するのが妥当と考えられる。
 実際に繰り上げ償還が宣言されるか、またその際にクオンツがAの条項を利用した行動を行うか否か注目したいところである。
 
posted by こみけ at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月14日

日経朝刊「試練の新興株市場」第1回を読んだ感想

 日経新聞13日朝刊投資・財務面に「試練の新興株市場」と題した連載記事が掲載されていた。第1回は『尊重されぬ株主利益 「先端的」資金調達のツケ』と題したMSCB関連のお話だったのでちょいと感想を述べてみる。
 日経テレコンでも読めるので、興味のある方はご覧くだされ。


 最初に気になった点として、本記事中では、MSCBに加え、「MSワラント」と言う馴染みのない用語が出ていた。行使価額修正条項付新株予約権、当HPで言うところのMSSOのことである。自分は初めて聞いたのだが、どうも雑誌「ZAITEN」が初出らしい。それ以前の使用例は自分は確認できなかった。
 個人的には、同じアルファベット4文字ということでMSCBとの類似性がアピールできそうなMSSOの方が良さそうに思えるが、まあ、どちらが使われるようになるかじっくり見守りましょうと言うことで。

 んで、本記事の中身である。NFKホールディングス(6494)の話は知らなかったが、まあ時折見られてしまうパターンである。
 本記事で特に感心したのは、同社の田中社長(当時)が匿名投資組合での資金運用をえらく安易に決めたのではないか、という疑念が記事からにじみ出ている点である。MSCBやMSSO(MSワラント)で調達した資金というのは、簡単に調達できたが故に効果的に使用されないことも多く、それがために再度MSCBでの資金調達を行う、と言う企業も増えつつある。この辺の心理が透けて見えるように書かれているのがすばらしい。
 あと、MSワラントの用語解説のところで、『引受先が最初に払う金額は少なく済む』と明記しているのには頷いた。MSCBならほぼ確実に期待できる払込資金の入金が、MSSOでは保証されていないんだからねぇ。いったい何のための発行なのかと。

 一方、真偽の程が気になったのが、最近MSCB等の引き受け手として時折見るようになったDKRオアシスの話である。運用規模、本当かねぇ。

 ちょいと残念だったのは、最後の締めの部分である。証券会社や投資ファンドは確かに次々と新手法を出しているように見えるのだが、それは資金が欲しい新興企業に応えるのではなく、あくまで自分自身のためなんだよねぇ。
 そうでなければ、MSワラントのような、実際に資金調達ができるか否かはっきりしないような金融商品を提案するわけがないと主張するところである。
 まあ、引き受け手側も商売である以上、リスクが高いところにはそう言う手法を持ってしか関わりたくないと言うのもわかるところではあるが。


 ・・・しかし、いきなり1発目にMSCB関連の話を持ってきて、続きはどうするのだろうか。それ以上のネタがあるのかねぇ。第2回以降が実に楽しみである。
 
posted by こみけ at 00:25| Comment(2) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする