2008年02月12日

住友不動産(8830)のMSワラント

 7日、住友不動産(8830)は総額1,200億円相当のMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権、MSSO)の発行を発表した。プレスリリースはこちら
 本MSワラントは、劣後ローンに付属?するものであること、メインバンクである三井住友銀行の信託口が割当先であること、行使期間が約50年と非常に長いことなど、一般的なMSワラントとは異なる点が多い代物である。
 本記事では、本MSワラントの行使制限条項および行使価額修正条項について簡潔に説明した後に、本ファイナンスがなんでこんなわかりづらい仕組みになっているのか考察を試みる。

 なお、本記事の後半ではローンや担保に関する推測を行っていますが、管理人はこれら金融知識については素人です(きっぱり)ので、そこら辺についてはあまり当てにしないで頂きたいと思います。また、記事中に間違いなどがあったらご指摘いただければと思います。


〜行使開始は実質6年後? 概要〜

 さて、本MSワラントの発行日は本年2月22日であるが、本年2月22日から6年後の2014年2月22日までは一定の条件を満たした場合を除きMSワラントの行使ができない旨が定められている。
 具体的には、本MSワラントの割当と同時に住友不動産向けに融資が行われるローンの利払いが止まったとき、監理ポストや整理ポストに割り当てられたとき、公開買付(TOB)が宣言されたときなど6項目が挙げられているが、いずれも近い将来において該当するような事態になることは考えにくく、現時点では本MSワラントの行使は2014年以降になって初めて可能になると考えた方が良さそうである。ここら辺を図で示すと図1のような感じになる。行使最終日は50年後の2058年2月22日であるが、まあそんな先のことは気にしなくても良いのではないかと。
 
50年後のことまで考えなくとも・・・
図1 本MSワラントの行使制限条項の概要

 次に、本MSワラントの行使価額修正条項の概要を図2に示す。本MSワラントの当初行使価額は2,440円に定められており、下限行使価額は当初行使価額の約45%、1,087円と定められている。
また、本MSワラントは引き受け手が予約権行使を行う度に行使価額の修正が行われるものとされていることから、図2においては、行使価額の修正はMSワラントの行使制限が解除される2014年2月22日より開始されるものと仮定した(もちろん、それ以前に行使制限が解除されれば、その時点から行使価額の修正が開始される)。
 そして、各修正日における修正後行使価額は、修正日までの20取引日の終値平均値の95%になると定められている。すなわち、過去20日間の終値平均から5%ディスカウントした値に行使価額が修正されることになる。

事実上毎日修正型
図2 本MSワラントの行使価額修正条項の概要

 貸株の空売りについては、本MSワラントの行使で得る株式数の範囲内で行う範囲内での空売り及び借株を行うかもしれないことがプレスリリースより読みとれるので、当然、行われる可能性があるものと見なすべきである。
 なお、1,200億円相当という本MSワラントの発行規模は、ライブドアによる買収騒動の最中に発行が発表され、発行差し止めの仮処分が下り発行を中止したニッポン放送のMSワラント(約2,800億円相当)を除けば過去最大と思われる。


〜値下がり耐性のある担保? 考察〜

 さて、本ファイナンスにおいて理解に苦しむのが、「本MSワラントにはいったい何の意味があるのか」という点である。プレスリリースによれば、本MSワラントは借入金の担保?として差し入れるらしいが、こう、住友不動産ほどの大企業の信用力があるのならば、何もわざわざMSワラントを発行し担保として差し入れるようなことをしなくとも、余裕で融資が受けられるのではないかと考えてしまうところである。

 一部では、本MSワラントが行使可能になる条件の一つとして、住友不動産株へのTOBが行われることが挙げられていることから、本ファイナンスには買収防衛策の意味合いがあるのではないかと言われているが、個人的にはこの見解には否定的である。
 仮に、本MSワラントが買収防衛を主要な目的としているのならば、自分としては、

(1)金額固定型ではなく、株数固定型のMSワラントを発行する
(2)本MSワラントでは定められていない上限行使価額を定める

の2点が定められたMSワラントが発行されるはずであると主張する。
 この理由として、(1)の株数固定型のMSワラントを用いることで、予約権行使により一定比率の議決権を確保することを確実にすることができる。さらに、(2)のように上限行使価額を定めることにより、予約権行使で必要になる資金を一定限度に抑制することが可能である。特に、(2)については今回のようなローンに付属させるMSワラントであってもなんの問題もなく定めることができるものである。
 しかしながら、株価の上昇と共に上限なしに行使価額が上昇し、かつ行使により得られる株式数が減少する仕組みである本MSワラントでは、買収者に対抗するために予約権行使を行う場合、株式の取得に相手方とほぼ同じ程度の資金をつぎ込まなければならなくなるだけでなく、予約権行使により確保できる議決権比率も減少してしまうのである。
 従って、買収防衛目的で使用することを想定した場合、本MSワラントはコストパフォーマンスのよろしくない設計であると言えることから、本ファイナンスは買収防衛を主目的としたものではないと考える次第である。

 ここで気になってくるのが、現在の市況悪化に伴い、住友不動産の本業である不動産事業にも悪影響がもたらされており、不動産価格の先行きについても警戒されつつある点である。住友不動産のような不動産会社相手の場合、一般的には銀行側は不動産を担保に取るのだろうが、その不動産の値下がりをおそれているのではないかと個人的には考えるところである。そこで、今回は、不動産などではなく、ある程度株価が値下がりしてもそれほど問題がない(≒株式転換→売却により融資資金の回収ができる)MSワラントを担保にすることを考えたのではないかと推測してみる次第である。
 今回のMSワラントの下限行使価額は1,087円であり、当初行使価額2,440円の44.5%の水準である。プレスリリースをみると、この下限行使価額は2004年の時価発行増資時における発行価格(払い込み価格)に合わせる形で定めたことを示唆している(プレスリリース9ページ)ものの、下限行使価額が当初行使価額の50%未満に定められているのは住友不動産(の株主)側にとって不利な条件と言えるところである・・・住友不動産の業績・財務面で何か問題が起きているわけでもないからねぇ。 半面、本MSワラントを担保として受け取る側からみれば、下限行使価額が低くなっていることは、株価がより大きく下がった場合においても予約権行使により資金の回収が可能である、すなわち、担保としての価値が維持できるという意味合いを持ってくると思われる。
 ローンの貸し手側は、この点に着目し、今回のローンの担保としてMSワラントを用いることを考えたのではないだろうか。また、住友不動産側としても、不動産価格の下落や事業面での問題が生じたときに担保不動産がどうのこうの、資金返済がどうのこうのと言われるよりは株式数が増えてそれで終わり、という展開になった方が面倒がなくて良いということなのかも知れない。

 以上のように、住友不動産と引き受け手の間の思惑は全く異なるとは言え、MSワラントを担保として用いることに両者とも意義を見出せる事情があるため、わざわざMSワラントを発行しローンの担保とする仕組みにしたではないかと考えてみる次第である。


〜新株予約権の担保価値は? 主張〜

 さて、本ファイナンスにMSワラントが用いられた理由についてはここまでの考察で一応の説明がつかなくもないが、まだ理解しがたい点は残っている。
 ご存じの方も多いとは思うが、1月31日、住友金属鉱山(5713)が総額1,000億円相当のMSワラントの発行を含むファイナンスについて発表した。プレスリリースはこちら
 このファイナンスを巡っては、住友金属鉱山に対し、三井住友銀行により同額のローンの貸付が行われるなど、ファイナンスの仕組みとしてはある程度似ているのだが、MSワラントに関する条件は大きく異なっており、特に、下限行使価額を1,749円と発行発表日前日の終値と同額に定めている点に注目する必要がある。現在の水準から株価が下落した場合に行使価額の下方修正が行われないと言うことは、株価下落の場合はMSワラントの行使を行っても資金の全額回収はできないことになり、MSワラントが担保として十分に機能しないことを意味している。すなわち、住友不動産で行った考察が住友金属鉱山の事例には当てはまらないと言わざるを得ないのである。
 では、住友金属鉱山の事例ではなぜMSワラントが担保として用いられたかとなると、正直明確な答えは浮かばないところである。例えば、

@MSワラントの発行諸費用が20億円とやや大きいため、この諸費用を収益?として得ることで株価下落時のリスクを補っている
A住友不動産の事例とは異なり大和SMBCが一枚かんでいるため、大和SMBCが何かしらの(住友不動産の場合とは異なる)作戦を持っている
B実は住友金属鉱山の事例は、今回のような手法に対する市場の反応を見るための試作品であり、今後は住友不動産のように下限行使価額が低く定められる事例がほとんどとなる

など、いくつかの可能性は考えつくが、@はローンの担保価値を保全したとは言えず、Aはじゃあ大和SMBCにはどんな手があるんだと言われても何とも言えないし、Bは住友金属鉱山と住友不動産の事例の間隔が近すぎる上、市場の反応を見るためだけにリスクのやや大きい1,000億円の融資を行うのはちょいと危険なように思えるところである・・・まあ、住友金属鉱山(と住友不動産)が債務不履行を起こすとはほとんど考えられないところだがねぇ。
 ひょっとすると、これらの事例においては、担保であるMSワラントが株価下落への耐性があるかどうかではなく、融資の担保として新株予約権を用いていると言うこと自体が重要なのかも知れない。
 普通、担保と言えば土地なり建物なりを差し入れるが、今回の事例では、その代わりに行使に制約がついた新株予約権を差し入れているのだから、発行企業側からすればいろいろと楽なのかも知れない。一方、ローンの貸し手側としては債務不履行時のリスクは存在するものの、住友金属鉱山や住友不動産のような大企業が債務不履行なんてするはずないという認識の元、今回のような融資案件を取り扱っているのかも知れない・・・信頼関係のなせる技としか言いようがない。おんなじ勢いで新興銘柄への融資もやってくれれば面白くなるのだが、そうはならないのだろうねぇ(リスクを考えれば当然)。


 ・・・9日付日経朝刊17面によると、今回のような仕組みのファイナンスについて、『他社も準備しているもようだ』とのことである。ここで言う『他社』とは、住友グループ各社のことを指し、融資は三井住友銀行主導で行われるものであると推測するのが妥当と思われる。
 今後何社程度で今回のようなファイナンスが行われるのか、また本当に今後も今回のようなファイナンスが行われるかはまだ未知数であるが、今後も動向に注目し、本記事で明らかにするには至らなかった、「一体どのような意図で今回のようなファイナンスが行われているのか」という点について検証を行っていきたいところである。
 
posted by こみけ at 02:08| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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