2006年11月12日

ゼンテック・テクノロジー・ジャパン(4296)のMSCB

 10日、ゼンテック・テクノロジー・ジャパン(4296、以下ゼンテック)は50億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手はUBSである。

 本MSCBは、転換価額の修正が行われると言う点ではMSCBであるといえるものの、転換価額の下方修正は行われず、上方修正のみが行われると言う点で一般的なMSCBとは大きく異なるものである。
 本記事では、本MSCBの転換価額修正条項の概要について簡単に紹介した後に、本MSCBの位置づけや引き受けたUBSの思惑について考察を試みる。

〜転換価額修正は上方のみ 概要〜

 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。

 まず、当初転換価額は発行発表日(10日)終値の501,000円に設定されている。
 転換価額の修正であるが、本MSCBでは転換価額の下方修正は一切行われず、行われるのは上方修正のみである。んで、その上方修正はどのような場合に行われるかであるが、これについては『決定日前の10連続取引日の終値の平均値(修正価額)』が『直近に適用された転換価額の120%を上回る場合』に行われると定められており、その場合、転換価額は修正価額へと上方修正されることになる。
 まあ、簡単に言えば、「過去10営業日の株価終値の平均が現在の転換価額よりも20%超高ければ、転換価額は終値平均へと上方修正される」と考えればよいのではないかと思う次第である。

 なお、1回目の転換価額修正については、『直近に適用された転換価額』は当初転換価額を指すことになると思われるから、転換価額の修正が行われるのは、修正価額が601,200円を上回った場合となり、修正後の転換価額については、その時期に株価が余程激しく動いていない限りは60〜61万円程度になると思われる。
 また、2回目の修正は(60万円の1.2倍の)72〜73万円近辺で行われるものと推測される。

いつもと上下逆
図1 本MSCBの転換価額修正条項の概要


〜CBか、MSCBか 考察〜

 さて、今回の新株予約権付社債が(MSCBではない)CBか、それともMSCBかという点については、自分としては「MSCBである」と言う認識を持っている。MSCBの「MS」は、「Moving Strike」の略であり、すなわち転換価額の修正が行われるCBがMSCBである、と言う解釈が妥当であると考えている。と言うことで、本CBはMSCBであると考える次第である。
 会社側は、一般的なMSCBは転換価額が上方・下方に修正されるものだとFAQに記載している(リンク)が、下方修正のみ行われるCBもMSCBと一般的に言われているのであるから、自分としては、上方修正のみが行われる本CBもMSCBであると主張するところである。
 なお、念のために付け加えておくと、このFAQで会社側が記載しているように、本MSCBが、(一般的な)MSCBとは異なり、株価が下がっても転換価額の下方修正や一株価値の希薄化を起こさないものであるという点には全く同感である。見解が異なるのは本新株予約権付社債がMSCBと呼ばれるものか否かという点のみということで。

 本MSCBは、昨今問題視されている(一般的な)MSCBとは、転換価額の下方修正は行われないと言う点で明らかに異なる。したがって、今回のMSCBを引き受けるUBSは、少なくとも一般的なMSCBで行われていると見られているような、貸し株の空売りで株価を大幅下落させ、転換価額の下方修正が行われた後に株式転換を行って返却する、と言う手法は使えない。なにせ、転換価額の下方修正は行われないのだから。
 となると、UBSは、今後の株価上昇を期待して引き受けを行った可能性が考えられる。当初転換価額の501,000円を上回る水準で貸し株の空売りを既に行っていない限り(←ここ重要)、株価が上昇しなければ本MSCBで利益を上げることは不可能であるからねぇ。
 ここで注目したいのが、本MSCBの償還期限がちょうど1年後の08年11月であるという点である。1年という償還期限はCBとしてはかなり短い期間であり、また、償還期限が2年程度のことが多いMSCBと比べても短い。また、本MSCBの当初転換価額は先週末終値と同額に定められており、一般的なCBで行われているような、当初転換価額を直近株価よりも高い値に設定することは行っていないのである(参考:シャープ(6753)のCB)。
 この辺を考慮すると、UBSは、一般的なCBを引き受けるのに比べれば、株価上昇時に利益を上げやすいと言えるし、また、仮に株価が低迷した場合、1年という比較的短期間で資金を損失なしで回収できることが指摘できる。


 以上より、本MSCBは、(一般的な)MSCBほどではないものの、(普通の)CBに比べれば希薄化の問題は大きいとも言えそうである。
 一方で、個人投資家の立場から見た場合は、引き受け手に株価を売り崩す理由が存在しないという点において、MSCBに比べればはるかに良い資金調達手法であると言えそうである。

 ただ、個人的には、UBSが本MSCBの条件に満足しているとはちょいと考えられないのだよねぇ。かつてUBSが引き受けたフォーサイド(2330)やアイディーユー(8922)発行のMSCBの条件あたりから見れば、今回の条件はずいぶん優しい?ように思える次第なのである。
 この辺、UBSが何かしらの秘策を持っているのか、あるいは持っていないのか、実に興味深いところである。
 
posted by こみけ at 17:22| Comment(6) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして見習いまんと申します
私もゼンテック(4296:大へ)のCBのIR見たのですが、転換価額修正のくだりは適当に読んだのでいまいちつかめていなかったのですが、こちらの記事ではっきりと理解させていただきました
他社のCBとの比較もあり、すごく勉強になりました
Posted by 見習いまん at 2006年11月13日 00:42
>見習いまん さん
 はじめまして&コメントありがとうございます。

 見習いまんさんのブログの方にもコメントさせていただきましたとおり、今回のMSCB、「下方修正がない」という点に注目が集まり、(普通の)CBとしてみればかなり悪い条件であるという点が見過ごされているように感じております。
 一方で、転換価額の下方修正は行われないのに、転換価額の修正が行われると言うだけで、普通のMSCBと変わらない代物であるとと受け止めている人もいるようであります。

 この辺、混沌としておりますので、本日以降株価がどのように動くか興味深いところであります。
 
Posted by こみけ at 2006年11月13日 01:46
ラ・パルレ(4357)が8/21によく似た新株予約権を発行しています。
割当先は同じUBS。基準価格は357,000円。
こっちは1度だけ下方修正が可能ですが、基本的に上方修正しかできない辺り、よく似ていると思います。

両方ともUBSに有利な条件とは思えません。
出来高や業態・規模は違いますが株価に注目して見てます。

すこし変わったMSCBが増えてきましたね。
Posted by 水馬 at 2006年11月13日 18:29
>水馬 さん
 コメント、ありがとうございます。
 ラ・パルレの新株予約権のことは知りませんでした。情報ありがとうございました。

 MSCBはここ数年で急速に進化してきましたが、新しい種類が出る直前には試行錯誤が行われるようで、その時期にはえらく複雑な修正条項を持ったMSCBや新株予約権を見ることがあります。
 ご紹介いただきましたラ・パルレの新株予約権、おっしゃるとおりゼンテックのMSCBによく似ています。
 また、ラ・パルレの修正条項はゼンテックのそれから見ればプロトタイプのように感じられます・・・ラ・パルレの修正条項をすっきりさせたものがゼンテックのものであると感じた次第であります。
 その上、引き受け手がUBSのMSCBつながりで、IDU→ラ・パルレ→ゼンテックと言う進化系統が成立するかもしれません。

 さて、ラ・パルレの新株予約権でありますが、貸し株で売り崩しを行う手は使用可能でありました。
 本新株予約権の当初行使価額は9月5日終値に定められることになっていますので、それまでの間に貸し株の空売りによる売り崩しを行えば、行使価額を下げることが可能であります。実際にやったかどうかは知りませんが。

 この例に当てはめると、ゼンテックは先週末の段階で、当初転換価額が定まっていた・・・すなわちラ・パルレの新株予約権の9月5日の段階でありました。
 となると、ゼンテックの場合にも、8月21日〜9月5日までと同様のチャンスがあった時期が存在した、と言う妄想も可能ではないかと感じております。
 この辺、UBSがどういう作戦で動いているのか興味深いところであります。
Posted by こみけ at 2006年11月14日 00:11
邪推ですがつりあげたところでEB債でも出すのではないでしょうか?先日のソフトバンクのEB債がソフトバンクのサイトにもなかったように個人が気づかないところで折り合いをつけてきそうです。
実際2chやyahooのソフトバンク掲示板にいってもほとんどの人がEB債の存在にすら気づいてないように思われます。知っていても危険性を理解してないと思われます
Posted by at 2006年11月14日 02:59
>ななしさん
 コメント、ありがとうございます。

 EB債の危険性については、かつてはJ_Coffeeさんが警告を発していたこともあり、それなりに知られていたのですが、JさんがHP更新を停止されてからは、だんだん認知度が落ちているように感じます。
 EB債は発行体が自社(ご指摘の場合はソフトバンク)ではないために、開示情報として出てこないのがやっかいですよねぇ。自分も、ブルームバーグの情報が2chにコピペされていれば気づくこともある、と言う程度であります。ソフトバンクの件も知りませんでした。

 EB債絡みのMSCBとしては、本年春に富士フイルム(4901)が発行したMSCB・交換社債を近い例として挙げられると思います。
 ただ、この事例の場合は交換社債が個人投資家にも販売されたようですので、必ずしも交換社債保有者が儲けるとは言えなさそうなところであります。

 んで、ゼンテック絡みでEB債が出るかどうかですが、個人的には、「EB債も含めた複雑な手法を採用するには、50億円は小額なのではないか」と感じており、可能性はあまり高くないと見ております。
 つまり、(自分も詳しいことはわかりませんが)それだけの手間をかけるのなら、もっと金額が大きくなければ割に合わないように感じるのですが、この辺いかがでしょうか。
Posted by こみけ at 2006年11月15日 00:05
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