株式市場に関わるすべての人が何らかの形で影響を受けたことがあるであろう「仕手筋」。しかしながら、その実体は表に出ることはあまりない。むしろ、表に出ないことでその存在感を増し、例え自らが動かなくとも様々な思惑を振りまいているものである。
本書「仕手の現場の仕掛け人 真実の告白 松本弘樹 著 (ダイヤモンド社)」は、仕手筋そのものではないものの、仕手筋のかなり近くに身を置き、十数年にわたり証券・金融業界を生き延びてきた著者による、仕手筋のあれこれを描いた本である。
本書が面白いのは、著者が「仕手筋」の範囲をかなり広くとらえて、それぞれに論評を加えている点である。たとえば、一部のアナリストやファンドマネージャー、機関投資家といった人々も、仕手筋としての面を持つと著者は主張している。
一般的(?)な仕手筋は自分のところから徐々に情報を流し、最終的には個人投資家に高値掴みさせて売り抜けるが、上記職業の人々が加わった場合、最終的なはめ込み先は機関投資家やファンドマネージャーが運用している投資信託であるという。あり得る話だ。それに対する見返りなんかも、「おそらくは事実だろうな〜」とうなずけるだけの解説がなされており、興味深く見ることができる。
また、ライブドアの堀江前社長がやったことを、堀江前社長を投資家、あるいは仕手筋と見なして解説していたのは実に面白い。確かに、経営者として株価の上げ材料を自ら出していたわけだから、最強だあねぇ。
対比事例として、自分が駆け出しの頃に遭遇したイタリヤード破産の事例を挙げてくれているので、両者を見比べると実に理解しやすくなっている。
さらに、最近の仕手筋の悩みとして、個人投資家が掲示板にあること無いこと書き込んで、相場をかく乱するようになったことを挙げているのは興味深い。特にそのような書き込みが多いのは、ヤフー掲示板や2ちゃんねるだと思われるが、まあ確かにいろんなことが書かれているものである(笑)。自分としては、こういった書き込みで株価が上下することはほとんどないと思っていたのだが、無視はできないようだねぇ。まあ、自分は無視するけど。
なお、余談ではあるが、時折これらの掲示板への書き込みに当HPのMSCB関連の記事が引用され、売り煽りや、時には買い煽りのネタとされていることを確認している。結構見ていて面白いこともあるし、自分とは違った視点で見ている場合もあり、参考になることも多い。もちろん、役に立たなかったり見当違いのことを語っている書き込みも少なくないわけだが。
話を戻す。本書で挙げられている多くの事例は「多分そうなんだろうな〜」と思える記述がかなりの割合を占めるのであるが、ITバブルに関する記述はちょいと大げさすぎるのではないかと思ったりした。
当時、仕手戦的な動きがあったのは確かだと思うが、それ自体がITバブルの膨張の原因ではないと思うのだが・・・。ただ、自分は当時まだ株式市場に参入していなかったから、本当のところどうなのかは何とも言えないところではある。
この他にも、ちょいと仕手筋の影響を過大視しているかな〜という箇所は何ヶ所かに見られる。もっとも、本のテーマが仕手筋なわけだから、許容範囲のような気もするが。
そうそう、本書の第5章で私募CB、あるいはMSCBを用いた仕手戦に関する記述がある。MSCBの生い立ちや90年代の事例、それに当時の東証の反応については自分はわからないので何とも言えない。
MSCB等を用いて、仕手筋が儲ける手法については本書中の記述の通りだと思う・・・MSCBについては、本書通りの手法でさばかれることは多くはないと思うが、第三者割当増資についてはかなりの事例が該当すると思われる。ただ、貸し株の空売りに関する記載が無いのはちょいと意外である。仕手筋もやっていると思うのだが。
あと、MSCBだと確実に儲かったので、仕手筋のみなさんも怠けたというのには笑った。たぶん、証券会社で引き受けた場合もそうなんだろうねぇ。
本書は、読んだとしても株取引の利益を増やせる情報が書かれた本ではない。
しかしながら、それ以上に重要な、大損しないために抑えておくべき注意事項が多数示されている、大変有用な一冊であると考える次第である。
2006年09月21日
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