2006年05月21日

双日(2768)のMSCB

 4月28日、双日(2768)は第3回・第4回合わせて総額3000億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら。引き受け手は野村である。
 本MSCBは、発行規模がMSCBとしては過去最高であることに加え、調達資金が優先株の消却に充てられるなど、資本政策上興味深い点がいくつか見られる。
 本記事では、本MSCBの転換価額修正条項の概要について簡単に紹介した後に、本MSCB転換に当たっての野村の動向や、本MSCBの発行目的である優先株の消却について考察を試みる。


〜VWAP平均から10%ディスカウント 毎月修正型 概要〜


 今回、双日は、第3回・第4回MSCBをそれぞれ1500億円ずつ発行した。第3回と第4回MSCBについては、新株予約権の行使(転換)請求期間が異なっており、第3回が5月26日以降、第4回が7月1日以降となっている。第4回が7月からとなっているのは、第4回分の転換を行うためには株主総会にて普通株の授権枠拡大を決議する必要があるかららしい。もし授権枠拡大が否決されたらどうするつもりなのだろうか・・・繰上償還かねぇ。まあ、大丈夫だろうけど。
 以下、本記事においては、第3回MSCBを例に取り説明を進める。

 本MSCBの当初転換価額は694.1円と定められている。また、上限・下限転換価額はそれぞれ2,047.5円及び341.3円と決定されている。
 そして、転換価額の修正は第1回目が6月2日であり、それ以降は毎月第3金曜日に行われるものとされている。この際の転換価額の修正は、「決定日までの5連続取引日のVWAPの平均値の90%に修正される」と記されているから、転換価額はVWAP平均より10%ディスカウントされることになる。
 ここら辺をまとめたものを図1に示す。

野村引き受けではよくあるパターン
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要


〜毎月の転換規模と野村の戦術 考察〜

 さて、本MSCBは発行総額3000億円と、MSCBとしては過去最高の発行額である上、発行発表時の双日の時価総額に匹敵すると言う点から考えても、極めて大規模なファイナンスと言うことができる。
 これだけの規模のMSCBを転換・売却するとなると、いくら野村といえども簡単な仕事ではないと思われ、一般的なMSCBで行われるような、転換・市場売却を繰り返すだけでは、とてもさばききれないものと考えられる。

 そもそも、野村はどの程度の期間をかけてこのMSCBをさばく気でいるかであるが、これについては、MSCB発行発表のプレスリリースから絞り込むことが可能である。
 プレスリリース2ページには、第3回・第4回MSCBの転換は、両者の合計で毎月300億円いないとする契約を結んだことが明記されている。すなわち、野村が全てのMSCBを転換終了するのは、早くとも10ヶ月、来年4月頃までかかることになる。
 一方で、第3回・第4回MSCBの償還期日はいずれも08年5月23日、すなわちおよそ2年後と定められており、行使請求期間最終日はその前日の22日となっている。もちろん、償還期日が到来すれば、残存しているMSCBは償還されることになるから、野村が全てのMSCBを転換する意志を持っているのならば、この日までに全てのMSCBが転換できるようなペースで転換を行う必要がある。
 つまり、本MSCBは、10〜24ヶ月かけて転換されると言えそうである。

 んで、これを基にして、野村は毎月どの程度のペースでMSCBを転換するかと考えると、一ヶ月当たりで125億(24ヶ月)〜300億(10ヶ月)の範囲になる。さらに、一ヶ月を20営業日として、1日あたり平均どの程度のペースで転換されるか考えると、6億2500万〜15億の範囲と言うことになる。これを直近株価から算出した株数ベースで言い換えると、毎日120〜280万株程度と言うことになる(転換価額は520円と仮定)。
 仮に、野村がこの転換株を全て市場売却によって処分しようとした場合、双日の出来高が1000万株以下の日が多いことを考えれば、株価が大きく下落することは明らかである。従って、野村が転換で得た株式を全て市場売却することはまずないと思われ、相当数を機関投資家等に市場外で売却するものと考えるところである。


〜優先株消却は誰に利益をもたらすか 主張〜


 さて、さらに話を進める前に、二つほど資料をご覧いただきたい。
 まずはこちらのpdfファイルである(リンク)。これは、双日が本MSCB発行発表と同時に発表した中期経営計画の資料である。本資料のうち、23〜29ページが資本戦略に関する説明となっており、本MSCBで現在発行している優先株を消却することが希薄化の抑制につながると主張している。
 次に、こちらの動画をご覧いただきたい(リンク)。これは、2ちゃんねるの双日スレの方がMSCB発行発表後に作成された動画である。内容はご覧頂けばわかるとおり、MSCB発行を問題視する内容である。

 さて、本MSCBに対する捉え方が何でここまで違うかと言うことなのであるが、最大の要因として、動画にもある通り、優先株の消却は期間利益によって行う当初の方針を、MSCBでの資金調達を行い消却する方針に転換したことが挙げられる。
 双日は、昨年5月にも600億円のMSCB(第2回)を発行し、その調達資金でもって優先株の買入消却を行ったのだが、その際、以後は期間利益による優先株の消却を行うことを示唆?していたのである(資料)。
 それが、ここにきて希薄化を伴うMSCBでの消却になったと言うことで、例え、長〜〜い目で見れば、会社側の言うとおり希薄化の抑制につながるとしても、当初の方針からすれば明らかな後退なのであるから、株主としては、今回の消却手法を問題視するのは当然である。一方で、会社側は、今回の方針転換について言及せず、優先株消却による希薄化抑制のみを強調しているため、株主と会社側で温度差?が生じているのである。

 そもそも、今回消却する優先株の大半は、普通株への転換請求の開始日が5年以上先に定められているものである。つまり、これら転換請求開始日がまだまだ先の優先株については、今回MSCBでの資金調達を行ってまで消却せずに、期間利益で順次消却するという選択肢もあったはずなのである。
 したがって、消却しないまま優先株の転換請求開始日が到来し、普通株への転換が行われるのに比べれば、今回のMSCB発行による優先株の消却は希薄化の抑制につながるとは言えるが、希薄化が全く発生しない期間利益での消却も可能なように見えるのに、その選択肢を放棄したのであるから、自分としては、今回の方針が批判されるのは当然と考える次第である。

 では、何故双日は今回優先株の消却を行うことにしたのかと言う点であるが・・・自分としては、消却を望んでいたのは、双日ではなく、むしろ優先株を保有している銀行側だったのではないかと主張してみる次第である。
 転換期日が到来すれば(現在の株価よりは)安値で普通株を入手できるとは言え、このまま何年も資金拘束が行われるよりは、ある程度のプレミアム(額面価額からの上乗せ)付で買入消却してくれる方が、銀行側にとっては望ましい展開なのかも知れないと思うところである。
 それに加え、銀行側は本優先株に対してある程度は減損処理?を行っているだろうから、発表されたプレミアムよりはもう少し利益率がいいはずと思われる。その結果、銀行的にとっては、今回の買入消却は満足できる結果になったのではないかと推測するところである。
 一方で、双日側には、全ての優先株式を急いで消却することにより得られるこれと言った実利はないように思われる。まあ、優先株を消却して負の遺産を一掃しました、と胸を張って言えるようになるという象徴的意味はあるのかも知れないが、その代償が時価総額に匹敵するMSCBと言うのはあまりに割の合わない選択である。


 というわけで、今回のファイナンス、双日が自らの意志で行ったのではなく、銀行側の要求でしかたなく行ったのではないかな〜とか、こっそりと主張してみたりする次第である。
 
posted by こみけ at 23:12| Comment(4) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうもです。
いつもながら、参考にさせていただいております。
今回の買入消却は銀行側の事情でとのこと、私も納得するところです。
最近のニュース(不良債権処理の加速による最近の倒産件数の増加、メガバンクの公的資金完済目処、野村のHDC化の意図)とも辻褄があうなぁ、と。
また、一見自己資本が健全化して見えるので、双日にとっても悪いことではないのかな。
しかし、既存株主が迷惑する資本政策には違いなく。ひどい話です(とかいいつつ、徐々に玉を増やしておりますが)。
Posted by かしわ at 2006年05月22日 10:46
>かしわ さん
 今回の優先株消却、当初は希薄化の抑制と言うことで評価していたのですが、落ち着いて考えてみるとあまりに性急すぎると言うことで、こういう主張になってしまいました。
 ゼロ金利解除が近づき、銀行としてもより稼ぎが良い分野へ資金を回したいという意図があるのだと思います。

 今回の優先株消却、方針自体が間違っているとまでは言いませんが、あまりに性急ですよねぇ。
 今回の消却は一部(第2回T種および第3回T種だけとか)のみにとどめ、買入資金をより小規模のMSCB発行で調達する、と言うのならまだわかるのですがねぇ。
 一気に3000億というのはやりすぎのように思います。

 実は、自分も本MSCB発行発表当初は双日の買いに入ることを検討していたのですが、記事中でもご紹介した神動画を見てやる気がなくなってしまいました。
 当面、売りにも買いにも入らず傍観の立場をとる予定であります。
Posted by こみけ at 2006年05月22日 12:55
こみけさん
今回の優先株消却、ト−メンの優先株を引き受けた金融機関が損失を出した?ので資金の回収を急いだとも考えられます。
そう言えば、丸紅も優先株引き受けて貰ってますね。
モデルケ−スにならなければ良いのですが・・・
Posted by GM at 2006年06月05日 20:14
>GM さん
 記事中にも書きましたが、双日は昨年もMSCB発行で得た資金で優先株の買入消却を行っております。
 それを考えると、昨年のが練習?で今回のが本番だったという考え方もできるかもしれません。

 今回のような手法が他銘柄でも用いられる可能性は大いにあると思います。ただ、元々、優先株転換による希薄化分も考慮して投資すべきですから、決して悪い話というわけでもないのですよねぇ。
 ・・・双日のケースはどちらかと言えば悪い話に分類される代物ですが(笑)。
Posted by こみけ at 2006年06月05日 23:20
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