2006年03月26日

富士写真フイルム(4901)のMSCB

 7日、富士写真フイルム(4901)が総額2000億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 本MSCBは、MSCBとしては発行額が過去最高である一方で、これまでのMSCBとは異なり、転換価額の下方修正により既存株主に犠牲を与えることはないと想定される転換価額修正条項が定められている。
 今回は、本MSCBの転換価額修正条項の概要を述べた後に、ほぼ同時に発行される交換社債の概要を考慮の上、野村は一連の手法でどのような利益を得られそうか検討を試みる。

 なお、本記事においては、「野村」とは、野村証券だけでなく、交換社債の発行会社であるキーストーン社などを含めた本ファイナンスの引き受けに関わる人々全体を指すものとする。

〜年1回修正・下限転換価額は発行発表時株価 概要〜


 本MSCBは、2011年満期債及び2013年満期債で当初転換価額が異なる(2011年満期債:5,278円、2013年満期債:4,901円)が、転換価額修正条項については両社とも同じである。今回は、2011年満期債を例に取り説明する。

 本MSCBの当初転換価額は5,278円であり、転換価額の修正は2009年3月31日及び2010年3月31日の2回のみ行われる(2013年満期債は5回)。この際、転換価額は、直近10営業日の終値平均の90%を修正日価額とすることと定められているから、転換価額は、終値平均から10%ディスカウントされることになる。なお、本MSCBでは「2006年3月7日の終値」を下限転換価額と定めることにしているから、本MSCBの下限転換価額は3月7日終値の3,770円である。
 これらをまとめたものを図1として示す。

発行発行日の終値以下には転換価額は下方修正されない
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要


 本MSCBで最も注目すべきは、下限転換価額が発行発表時の株価に定められていることである。これまで発行されたMSCBでは、株価が下落した場合、転換価額が発行発表時の株価を下回り、一株価値の希薄化が激しくなる危険性が存在していたが、本MSCBでは、発行発表時の株主の立場から見れば、このようなリスクは全く存在しないことになる。
 この一点において、本MSCBは一般的なMSCBとは全く異なるものであると言え、引き受け手の野村は、従来のMSCBとは異なる手法で利益を出すことになると推測される。


〜交換価額に関する野村の立場 考察〜


 ここまで見てきたように、本MSCBの転換価額修正条項は、一般的なMSCBとは異なり短期で利益を出せる仕組みにはなっておらず、一見、本MSCBの引受で野村が大きな利益を得るのは困難なように思える。ただ、本MSCBに関連して、野村は本MSCBの発行発表直後、富士写真株を対象とした総額2000億円の交換社債発行を発表した。本交換社債の概要を記した案内?はこちら

 本交換社債は、交換価額の修正については定められておらず、3月29日〜4月4日の富士写真の株価水準より算出した交換価額が満期まで適用される模様である。また、購入最低額は100万円と定められている上、目論見書の配布を野村証券の本支店で行うと明示してあるから、機関投資家のみならず、個人投資家への販売も行う模様である。

 ここで興味深いのは、交換価額の決定方法である。本交換社債の交換価額は、本年3月29日〜4月4日の富士写真の株価終値平均に、一定のアップ率を掛けた値に定められることとなっており、アップ率は、仮条件として、5年債(2011年満期)が128〜138%、7年債(2013年満期)が111〜122%と定められている。なお、アップ率及び交換価額の正式決定は、4月4〜5日頃に行われると考えられる。
 となると、野村としては、この期間の株価が上がってくれた方が有利となる。引き受けたMSCBの当初転換価額は、2011年満期債が5,278円、2013年満期債が4,901円であるから、交換価額がこれ以上に決定されれば、準備しているに違いない様々な作戦を使うまでもなく、交換価額とMSCBの当初転換価額との間で利ざやを稼ぐことが可能である。仮に、5年債の交換価額が5,500円に定められた場合、野村は交換請求が行われた時点でMSCBを当初転換価額5,278円で転換し、株式を引き渡すだけで利ざや222円相当が抜ける。
 まあ、どちらにしろ、利益を増大させたり、リスクを抑制するために色々な作戦を使うのだろうけど。
 んで、交換社債のアップ率が上限に定められると仮定した場合、交換価額がMSCBの当初転換価額を上回る株価水準は、

5年債:5,278÷1.38≒3,825円 ・・・@
7年債:4,901÷1.22≒4,018円 ・・・A

と算出される。24日終値は3,850円であり、わずかに@を上回っているが、Aは下回っている状況である。果たして野村はこのくらいの株価水準で問題ないのか、それともAを上回る水準になって欲しいと願っているのか、興味深いところである。まあ、下がるよりは上がって欲しいのは確かではないかと思えるところである。

 なお、上記の考察は転換価額の上方修正が行われた場合は通用しなくなるが、まあ、そこら辺については野村の中の人がなんとでもすると思うところである。と言うか、上方修正前に転換しておけば済む話であると思われる。

 今回、野村は「貸し株の空売り→MSCB転換→貸し株を返却」と言うMSCBで利益を出す定番の手法を使用しない代わりに、上記の転換・交換に関わる利ざやの他、少なくとも個人投資家に販売する際の手数料及び、MSCBと交換社債の利子差額などを利益として得るのは確実である。
 ただ、これらの利益は、金額ベースではともかく、率ベースでは(一般的なMSCBの引受で得られる利益率と比較した場合)十分とは言えなさそうであり、MSCBの発行金額が2000億円と巨額であること、及び、引き受け手が強大な営業網を持つ野村だったからこそ採用できた手法であると考えるところである。

 従って、今回のような手法は、今後、MSCBの発行手法として一般化されるとは考えにくく、あくまで特殊事例とみなすべきと考えるところである。

posted by こみけ at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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