2009年07月20日

東洋ゴム工業(5105)のMSCB

 8日、東洋ゴム工業(5105)は50億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 本MSCBは、エルピーダメモリ(6665)のMSCBと同様、各月の最低MSCB転換額が定められた代物である。
 しかしながら、本事例では引き受け手の野村證券はエルピーダの事例に比べてはるかに柔軟にMSCBの転換を行えるようになっており、プレスリリース記載の東洋ゴム側見通しを覆しかねない要素をはらんでいると考える。

 本記事では、本MSCBの概要を説明した後に、『毎月一定数量を転換する』とプレスリリースに記載されている取り決めが実際はどのように運用されうるのか考察を試みる。

〜毎月修正・ディスカウント率8% 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は226円と定められている。また、上限転換価額は339円、下限転換価額は113円と定められている。転換価額の修正は毎月第2金曜日に行われ、各決定日における修正後転換価額は決定日までの5取引日の終値平均値の92%になると定められている。第1回決定日(8月14日)を例に取ると、8月10・11・12・13・14日終値の平均値から8%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

修正条項はごく一般的
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要


 なお、貸株の空売りについては、『当社の特別利害関係者(企業内容等の開示に関する内閣府令第1条第1項第31 号イに定義される)』(≒役員や過半数の株式を握っている会社)との株券貸借契約は結ばないと記述しているものの、31号ロ(株式保有比率上位10社)についての記述はない。
 従って、東洋ゴムの株主構成を見る限り、その気になれば(大株主からの)貸株の調達は不可能ではないと思われる。

〜一月で50億全転換もありうる 考察〜


 さて、本MSCBで自分が気になった箇所として、プレスリリースで発行理由として挙げられている『割当先である野村證券株式会社との間で、原則(管理人注:株価低迷時などが例外)として毎月一定数量(社債額面金額3億円)を転換する旨の合意をする予定であり、段階的に着実な資本拡充が期待できる』という記述を挙げてみる。
 この合意により、東洋ゴム的には『小刻みに公募増資を実施する場合と同様の経済的効果を期することができる』のだという。仮に、毎月3億ずつ定額のMSCB転換が行われればそう言いえるのかもしれないが、自分は、この合意は3億ずつ定額と言う取り決めではないものと認識した。
 プレスリリースの6.(5)には割当先(野村)による新株予約権の行使義務が定められているが、本項では、野村の行使義務は『各行使約束期間(≒1ヶ月)ごとに少なくとも3個(管理人注:MSCB3億円分)』と定められている。つまり、3億円分というのは最低額で、多い分には毎月何億円分だろうがMSCBを好きなだけ転換していいことになっていると解釈できるのである。
 本MSCBと同様に新株予約権の行使義務を定めた事例として、昨年発行されたエルピーダメモリ(6665)のMSCBが挙げられる(参考:当ブログの考察記事)。エルピーダの事例においては、発行発表時のプレスリリースには、『毎月一定数量(社債額面金額50億円相当)』の転換を行うと記載していたが、実際は、後述する日本証券業界による規制枠一杯の毎月60億円ずつのMSCB転換を行っていた(転換不可能だった月をのぞく)。
 したがって、今回のMSCBについても、エルピーダと同様の仕組みになっていると考えるのが妥当であり、引き受け手の野村が一月に3億円超のMSCB転換を行う可能性は考えておかなければならない。
 以上の点より考えると、行使義務に関するプレスリリースの記述については、嘘とまでは行かなくとも、誤解を招きかねない表現であると言わざるを得ないところである。実際に大規模転換が起きたとき、既存株主からどんな反応が出るのやら。

 一方で、日本証券業協会(以下日証協)の規制により、各月のMSCB転換規模は発行済株式数の10%未満に制限される。しかしながら、今回東洋ゴムが発行したMSCBの規模は時価総額の10%弱である。と言うことは、(時価総額の数十%の規模だった)エルピーダの事例に比べれば、本MSCBにおける日証協規制の影響は小さくなると言える。
 図2に転換価額と各月の転換可能なMSCBの規模の関係を示す。平均転換価額が218.1円以上の場合、MSCB50億円分を一気に転換したとしても転換で増大する株式数は発行済株式総数の10%以下になる。すなわち、野村が1ヶ月で全MSCBを転換しても(少なくとも日証協規制の観点では)何の問題もない。また、下限転換価額の113円の場合においても、25億円分の転換は可能となっており、2ヶ月でMSCBの全転換が可能と言うことになる。
 つまり、東洋ゴムがプレスリリースで主張するところの『着実な資本増強』はずいぶんと短期間で行われてしまう可能性が否定できないのである。

大量保有報告が楽しみ
図2 転換価額と各月の転換可能MSCB規模の関係


 ・・・図2を見ると、エルピーダの事例に比べて、はるかに引き受け手の野村の自由度が高く取られていることがわかる。
 もちろん、この理由は本MSCBの規模が相対的に小さいことである。だが、もう少し最低転換規模を大きくしても良いのではないかな〜と感じた次第である。
 まあ、東洋ゴム的にそれでいいのなら問題ないのだがねぇ・・・支出予定時期を見れば、大丈夫だとは思うのだが。


 ・・・と言うわけで、日証協や東証がMSCB規制を行っている現状においても、MSCBの進化は相変わらず続いている。
 それまでの手法と一線を画すような革新的なMSCBの類は、昨年、裏で引き受け手と株価連動のスワップ契約を結んでいたとして話題になったアーバンコーポレイション(8868)以来出ていないと考えているが、そろそろ出てきてもおかしくないような気がする次第である。本年8月から導入されるという東証の第三者割当増資規制がきっかけとなる可能性もある。
 そもそも資金調達ができない、と言う企業が多い昨今であるが、資金調達手法の進化についても注目しておこうと思う今日この頃である。
 

posted by こみけ at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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