2009年05月31日

【書評】黒の株券 ペテン師に占領されるウォール街

 皆様ご存じの通り、日本株式市場にはゆかいな銘柄が新興市場を中心に多数存在している。2006年以降、不正が明らかになったいくつかの銘柄はよくて株価急落、悪ければ倒産という結末に見舞われ、投資を行った人々のお金の大半はどこかへと消えてしまった。
 この反省からか、最近、東証、日証協などで上場企業への規制強化が検討されている。この際、参考事例として米株式市場における規制が取り上げられることが多いが、米国とて問題がないわけでもないようだ。

 本書「黒の株券 ペテン師に占領されるウォール街 デビッド・アインホーン 著 塩野未佳 訳 (パンローリング)」は、ヘッジファンドの社長を務める著者と、ニューヨーク株式市場上場の投資会社アライド・キャピタル(ALD、以下アライド)との戦いを通し、米株式市場を取り巻く様々な問題について著者の意見を述べた作品である。

 戦いのそもそもの発端は、投資講演会(時々日経で広告が出ている講演会のようなものか?)で著者がアライド(とその子会社、以下同じ)が不正会計を行っているとの主張を行ったことに始まる。
 講演は、アライドの投資先のうち、経営が行き詰まっている企業についても投資を回収できると見なし、損失隠しを行っている、という内容であった。講演内容自体も刺激的なものだが、著者が率いるヘッジファンドが講演前にアライド株を空売りしていた(講演時に明言)というのが事態をさらに混沌とさせた。
 当然というべきか、アライドから著者へのプレスリリースによる反論があり、そこから泥仕合が始まった、と言う流れである。まあ、日本でもネット・週刊誌vs糞銘柄の構図で良く見られた展開だねぇ。

 アライドが行ったという不正の中で特筆すべきは、焦げ付き時には米政府(正確には中小企業局(SBA))が大部分の補填を行うという中小企業向け融資制度を悪用し、不正融資を行っていた事例である。不正融資自体は、実際には廃墟の建物を、収益物件と言うことにして融資を引き出していた・・・という日本でも時折見かけるパターンである。
 面白いのは、この不正を見抜いた著者がSBAに告発を行った後である。まず、SBAはまともに取り合おうとせず、不正融資が積み重ねられるのを放置していたという。また、問題が大きくなり、政治問題化(公金の不正支出)した際にも、アライドから民主・共和両党のえらい人に政治献金が行われており、そのせいでアライド側に有利な判断が下されたとのことである。
 日本だとなかなか想像できない事態ではあるが、向こうはロビイストなる人が活発に動いているとも聞くので、まああってもおかしくない話ではある。
 あと、ニューヨーク・タイムズを初めとするマスコミ産業やSECが当てにならなかったとも書いているが、これは日本でも同様だから特に異論はない。おそらくは事実なのだろう。

 ・・・著者が本書を通じて語っていることは、おそらく事実だろうし、アライドだけではなく、米株式市場で似たような事例が多数起きていると思う。
 ただ、著者のヘッジファンドがアライド株の空売りをやっている以上、発言内容がある程度色眼鏡で見られるのは仕方のないことだと思うのだよねぇ。
 自分の場合は、アナリストレポートでさえ、純粋な企業分析以外の何かしらの意図が働いていると考えたりする。ましてや、売りポジションを持っているヘッジファンドの発言など、たとえ正しいものであったとしても、なかなか真剣に聞こうとはしないと思う。
 もちろん、真実を明らかにしようとする著者の行動が間違っているわけでもないのだが、人間完璧じゃあないからねぇ。働かないSBAの役人は問題外だが。


 ・・・本書を通じて米国の事情を垣間見ると、「程度の差はあれどの国も苦労しているな〜」というのが自分の印象である。
 となると、結局の所、自分の資金は自分で守らなければならない、というのは全世界共通であり、日本株式市場で規制強化とやらが行われても引き続き自己防衛が必要なのは間違いなさそうである。
 政府、証券取引所、その他の何かに期待するのはやめにしましょうと言うことで。

 ・・・しかし、この著者の人もすんごい執念だねぇ。いくら空売り中の銘柄とはいえ、ここまで話がこじれたら、自分ならさっさと手を引いて他に回るのだが。
 まあ、このくらいの執念、もしくは信念がないとヘッジファンドの社長は務まらないということなのだろう。
 自分には到底無理ですな。
 
posted by こみけ at 18:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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