2008年10月19日

エルピーダメモリ(6665)のMSCB

 14日、エルピーダメモリ(6665、以下エルピーダ)は500億円のMSCB発行を発表した。プレスリリースはこちら
 引き受け手は「Nomura Asia Limited」なる野村證券の関連会社である。

 本MSCBについて考察を試みた結果、以下のような注目点があるものと認識した。
(1)転換価額修正条項については、当初転換価額の算定方法が珍しいと感じる。
(2)各月のMSCB転換数量は、最小50億円、最大数量は株価水準により決まるが、少なくとも60億円以上の転換が可能である。

 本記事では、まず、本MSCBの転換価額修正条項について概要を述べる。
 その後、本ファイナンスに盛り込まれているMSCB転換義務(新株予約権行使義務)について考察を行う。

〜毎月修正、ディスカウント率7% 概要〜


 本MSCBの転換価額修正条項の概要を図1に示す。
 本MSCBの当初転換価額は、10月15・16・17日の株価終値を平均し、1,017円と定められた。また、下限転換価額は509円、上限転換価額は2,034円と定められた。
 大半の場合、MSCBの当初転換価額は発行発表日または発行日の株価を基準として算出されることが多く、今回のように発表後数日間の株価を基準に算出する事例は珍しい。
 この点は、MSCB発行発表や同日発表したよろしくない業績見通しによって発生することが予見できたであろう株価下落を転換価額に織り込ませたかったのかもしれない。株価が下限転換価額に引っかかってしまったら元も子もないからねぇ。
 また、転換価額の修正は毎月第2金曜日に行われ、各決定日における修正後転換価額は決定日までの5取引日の終値平均値の93%になると定められている。第1回決定日(11月14日)を例に取ると、11月10・11・12・13・14日終値の平均値から7%ディスカウントした値に転換価額が修正されることになる。

3連発S安を想定していたかは興味深い
図1 本MSCBの転換価額修正条項概要

 なお、貸株の空売りについては、Nomura Asia Limitedとの間については一定の条件下でのみ空売りができるという契約がプレスリリース中に記載されているが、野村證券との間の契約については記載がない。
 従って、野村グループ全体の立場では、その気があれば空売りは問題なく行えると考えるのが妥当であると思われる。


〜毎月50億円は最小値 考察〜

 さて、本MSCBには『転換(行使)制限措置』および『新株予約権の行使義務』なる条項が定められている。
 このうち、転換制限措置(プレスリリース9ページ目、7.(3) )については、『本新株予約権付社債(管理人注:MSCBのこと)に付された新株予約権を毎月一定数量(社債額面金額50億円相当)行使すること』を合意する予定であるという。また、プレスリリース2ページ目の、『<本新株予約権付社債の商品性>』および『<本新株予約権付社債を選択した理由>』にも記載されている。このことから、本MSCBは毎月50億円分ずつ行使されることが原則になっているようである。
 ただ、どうやらこの原則には例外もある模様だ。新株予約権の行使義務(プレスリリース10ページ目、7.(5) )では、毎月『少なくとも(中略)5個(=50億円分)』の行使を行うことと定められている。つまり、毎月5個は最低限の行使数で、6個(60億円分)とか10個とか行使することも認められている、という解釈が成立する。これより、各月に転換されるMSCBは50億円超にもなりうると読めるのである。

 かつて、野村が引き受けた双日(2768)のMSCBにおいて、発行発表時のプレスリリースでは『転換は原則として毎月300億円を上限とする(このプレスリリースの2ページ目)』としていたのにもかかわらず、実際には、野村は双日の同意を得た上で460億円分のMSCBを転換していたことがある。

 一方、今回エルピーダが発行するMSCBのプレスリリースにおいては、1ヶ月間に50億円を上回るMSCBの転換を行う可能性があることが確かにプレスリリース中に(1カ所だけだが)記載されている。
 しかしながら、プレスリリースの4カ所くらい、しかも前の方の目立つページにおいて、『原則として毎月一定数量(社債額面金額50億円)を転換する』という記述がある。
 自分としては、このような記述のやりかたは、本MSCBの転換は毎月50億円に固定されているとの誤解を投資家のみなさんに与えかねないと思う次第である。もちろん、50億円を超える転換を行うのはあくまで例外なのかもしれないがねぇ。

 この辺を総括すると、本MSCBの転換制限に関するプレスリリースの記述は、嘘とまでは言わないが、少なくとも美しくない代物であると感じる次第である。


 一方で、本MSCBの転換規模には(双日の頃にはなかった)公的なルールによる一定の歯止めが掛けられる。日本証券業協会(以下日証協)の規制では、各月のMSCB転換規模は発行済株式総数の10%にするよう定めている。本MSCBにおいてもこの規制が適用されるのは間違いない。
 10月14日時点での発行済株式総数は1億2,981万株であるから、その1割である1,298万株分のMSCBの転換が毎月可能ということになる。
 そして、これに転換価額を掛けた数字が毎月可能なMSCBの最大額になる。ただ、本MSCBの転換請求は10億円(=予約権1個)毎に行うと定められており、これより小口での転換請求は認められていない。従って、MSCBの転換可能額は(日証協規制を超えない範囲で)10億円刻みで増加していくことになる。

 以上より、行使義務条項で定められる毎月の転換可能なMSCB規模を図示すると図2の通りとなる。転換価額が509円の場合でも60億円の転換が可能であり、当初転換価額の1,017円では130億円の転換が可能である。
 もちろん、毎月50億円分のMSCBを最低でも転換しなければならないのは転換価額がいくらであっても同様である(株価が下限転換価額を下回った場合等は除く)。

1個1億なら柔軟性が高かったのに
図2 毎月の転換可能なMSCB規模


 現在、エルピーダの主力商品であるDRAMは価格が採算割れ水準まで下落しており、エルピーダ的には極めて厳しい状況が続くことになることが予想される。
 ひょっとすると、今回MSCBの転換義務条項を定めたのは、MSCB転換により純資産が増えないと(今回1,100億円を引き出すことになった)コミットメントラインの継続に問題が出るからかもしれない・・・純資産を一定以上に保つ条項があるとかそんなんかねぇ。

 いずれにしろ、今回エルピーダは1,600億円の現金を手にするのと引き替えに背水の陣を敷く格好になった。
 自分としては、その覚悟の行く末をなるべく遠くから見届けたいところである。
 
posted by こみけ at 15:14| Comment(0) | TrackBack(0) | MSCB関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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